全て悪い夢だったなら
02

 言ってから、実に的を射た言葉だと思った。誰が俺の誕生をありがたがって、嬉しがってくれた? 誰が存在を喜んでくれた?
 誰かに適当に言われるおざなりの「おめでとう」なんかいらない。聞かれたってかわしてはぐらかす術も見につけてしまった。
誰にも「おめでとう」なんて言ってほしくない。だって、おめでたくなんかないのだから。

「じゃあっ、調べに行きましょう!」
「どこに?」
「えっと……あっ、戸籍とか!」
「俺、戸籍あるのかな」
「……」

 待てよ、戸籍と言えば。
 俺が軽く口にした冗談に本気でショックを受けて固まる比奈を横目に、鞄をあさる。
 ああ、あった、やっぱり。

「三月二十日だってさ」
「へ?」
「ほら」

 手にした学生証を比奈に渡す。
 そういえば、何事かある時の書類――と言ってもほとんどアルバイトの履歴書――のプロフィール欄は、学生証を参考に数限りなく書いてきたのに。どうして知らなかったのだろう。流れ作業化していたのだろうか。

「あと一ヶ月もないじゃないですかぁ……なんでもっと早く言ってくれなかったんですか!」
「それ比奈には言われたくないよ」
「むむっ」

 そーか、と呟き、けれど口を尖らせて二十日、二十日とぶつぶつ復唱する比奈。
 一方俺は、来月の生活費と給料の差異を素早く割り出し(馬鹿だけどもこういう計算は速い)、少しずつ貯めていた貯金がいくらほどあるかを思い出していた。