愛してるから縛るのだ
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「なんつうか……ダメだよ、比奈は」
「なんでだよ」
「それは雄飛兄が言わなかったんなら俺が言っちゃいけねんだけど……つか、詳しくは俺も知らねえけど」

 前言撤回、話が噛み合わない。
 煮え切らない態度の筋肉にいらっときて、帰ろうとすると慌てたようにマフラーを掴まれた。首が絞まる、痛い。

「お前、比奈に本気なんだよな?」
「しつこいな、何回も言ってるじゃん」
「比奈がどんなでも、本気だよな?」
「……?」
「お前、気に食わねぇけど、根は悪い奴じゃないと思ってるから」
「そう見えるだけで実は根も腐ってるんだけどね」
「……それ自分で言うか、普通」

 呆れたように筋肉が目を眇める。派手な金髪をがしがし掻いた筋肉は、本気ならいいんだと呟く。

「比奈のこと、よろしく頼むよ」
「……何これ、今日エイプリルフールじゃないんだけど」
「テメェ人がせっかく真剣に……!」
「寒いからもう帰っていい?」
「ああもういいよ! お前なんかに比奈を託そうとした俺が馬鹿だった! やっぱお前に比奈はやれねー!」

 捨て台詞を吐いて、筋肉はエントランスの向こうに消えた。
 ……いったいなんだったんだ。
 帰路につきながら、筋肉の言っていたことを思い返す。

『比奈がどんなでも、本気だよな?』

 いったいどういう意味だろう。どんな比奈でも?
 比奈は可愛いし愛しいし、好きだ。でも、いつかくる終わりに備えていないと、自分が壊れてしまいそうだから線を引く。精一杯比奈に優しくして、本気の俺は極力見せないで、いつダメになっても覚悟をして、傷つかないように。
 だけど、いつの間にか、線を引くのが下手になってきている自分を感じる。深入りしすぎてしまいそうで、比奈が隣にいることが当たり前のようになってしまいそうで、少し怖い。
 必死で線の引き方を思い出そうとすればするほど、彼女の笑顔がそれを邪魔する。
 これを本気と呼ばずしてなんと言えばいいのだろう。
 どんな比奈でも、愛していける自信がある。反対に、どんな比奈にも心を許せない自分がいる。
 不安定なまま、俺の気持ちは揺れたりひっくり返ったりを繰り返す。
 比奈が俺の前から消えるいつかの日、俺の心はどうなっているのだろう。

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