愛してるから縛るのだ
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 新学期がはじまって、俺はまたしても職員室に呼び出されていた。宿題? あの短い休みに宿題を出すなんて、教師は頭がわいているんじゃないか。

「そういうセリフは宿題をやってから言え」
「えー……」
「うちのクラスはお前と、日野だな、ひとつも宿題をやってこなかったのは」
「純太もか。アホだもんねあの子」
「お前もな」

 宿題が終わるまで終わらない補習を言い渡され、サボろうと下駄箱に向かうも妙に正義感の強いうちの担任が追いかけてきて失敗に終わった。その上比奈に宿題はちゃんとやらなきゃダメだと怒られ、こうしておとなしく補習に出ている。

「まーたこのメンツか」
「てか、俺ら以外にほんとにいねえのかよ」
「絶対いるよねぇ。なんでオレらだけ」
「夏休みの宿題の分も足してある。お前らだけだ、夏休み明けの補習サボったのは」
「ああ、そういうつながり」

 もはやお馴染みの、俺、あゆむ、純太という問題児を前に、生徒指導の沢山先生は教育的指導に燃えている。俺たちにプリントを配ると、きらりと眼鏡のフレームを光らせて黒板に向き直った。

「いいか、お前らのおつむのレベルに合わせて宿題と違って易しい設定だ。今日はこれが終わるまでは帰さんからな」
「げ、何これ意味分かんないんだけど」
「はるねむふかくあかつき……何これ」
「しゅんみんあかつきをおぼえずだよ、それくらい覚えてなよ」
「じゃあ次は何だよ」
「しょじょ……」
「え、処女? 違くない?」
「お前らちょっと黙れ」

 意味不明な漢字の羅列にまず根を上げたのはあゆむだった。板書をはじめた先生の目を盗み、漢詩が書かれたプリントをちぎっては投げちぎっては投げ、頭髪が残念なことになっている沢山先生のほうに嫌みったらしく投げ捨てる。

「真中、お前留年したいのか」
「先生のヅラ作ってやってんだよ」
「カミ違いだ!」

 ノリノリで突っ込んでくる先生をよそに、俺は携帯でテトリスに励み、純太は半分寝ていて、授業を聞く気はまったくない。ああ、今あの長い棒が必要なのになんで黄色のブロックばっかり……

「桐生っ!」
「あぁ〜先生のせいで黄色のブロックが……」
「テトリスなんかやってる場合じゃない! ……お前ら、この補習を乗り切らなきゃ本当に留年するぞ」
「留年したら高校なんて辞めてやる」
「俺も辞める」
「え、じゃあ俺も」
「お前らって奴はほんとう……!」

 そして丸々一週間、本気で切れた沢山先生に扱き抜かれる補習は続いたのであった。