愛してるから縛るのだ
09

 お兄さんがふうとため息をつき、あぐらをかいたまま首筋を掻く。

「俺もな、頭ごなしに反対したいわけじゃない。そりゃあ久しぶりに実家に帰ってきたら可愛い可愛い妹に変な虫がくっついてんだから怒りはするが、理由も何もなく反対はしない。比奈が幸せにしてればそれでいいんだ」
「……」
「しかし理由はある。だから反対する」
「はあ、……?」

 ずいっと近づいてくるお兄さんに、思わず正座を崩して後退る。

「ただ、それを今お前に話す気はない」
「なんでですか」
「俺はまだお前を比奈ちゃんの彼氏として認めてはいないからだ」
「……今後の俺次第ってことですか?」
「まあそうなるな」

 今度は大きく息を吐き出して、お兄さんはぶつぶつと恨み言のように「そりゃあ比奈が好きなら俺だって応援してやりてえよだけどいきなり心の準備もなく鉢合わせれば面食らうし気に入らないし」などなど延々とぼやく。
 話が終わったのならさっさと解放してくれないだろうか。

「ああ、あとひとつ言い忘れてた。お前、比奈に手ぇ出したらぶっ殺すからな」
「彼氏なのに」
「彼氏かどうかは関係ない。比奈ちゃんが結婚するまで不純異性交遊は禁止」
「うわあ……」
「なんだ」
「夢見すぎじゃないですか」
「お前はっ倒すぞ」

 いまどき結婚するまで処女を貫いてる人なんかいるのだろうか。いや、いるかもしれないけれどそうそういないだろう。いったいお兄さんは比奈にどれだけ夢を見ているのやら。
 ちょっとげんなりしつつ、ひょっとして比奈が男相手にあんなにびびるのは、このお兄さんの教育のせいなんじゃないかと思う。男はみんな狼、近づいたら食べられちゃうよ、とかそんなようなことを小さい頃から呪文のように囁かれていたから、あんな子に育ってしまったのではないだろうか。
 いらぬ詮索をしてみるが、所詮本人たちのみぞ知ることだ。それに、最近俺に触れられるのもだいぶ慣れてきてくれたので、やることやれる日も遠くないんじゃないだろうかとちょっと期待している。結婚するまで処女? そんなのお兄さんの勝手な希望で、俺は知ったこっちゃない。