愛してるから縛るのだ
08
「俺は、比奈の彼氏なんか認めない! 比奈ちゃんは純粋無垢なお姫様のままでいないとだめなの!」
「……」
「お兄ちゃん、何言ってんの?」
頭にクエスチョンマークをいくつも抱えて、比奈が首をかしげる。
なんだろうこのテンション、あの幼馴染たちにそっくりだ。……まさか、お兄さんに洗脳されてるんじゃないだろうか。
地団駄を踏みながらわめくお兄さんに、比奈は意味が分からないといったふうで、ここまで鈍いとある種賞賛に値するなとちらりと思った。
「あ、おせちおせち!」
「ああ、うん……」
「待て貴様!」
もう俺はどうしたらいいんだ。
結局、比奈に押し切られるかたちで、俺は相沢家のダイニングで椅子に座り、豪華なおせちを突いていた。約三名の好意的でない視線にさらされながら。まあ、同性に嫌われることなど慣れっこなので、今更痛くもかゆくもないが。
「美味しいです」
「あらほんとう? 嬉しいわあ」
おばさんの作る食事は、今まで数回口にしたが、ほんとうに美味しい。少食の俺でも箸がすいすい進んでしまう。
……そういえば、この家には父親の姿がないな。聞くのも野暮なので口には出さないが、少し気になる。
栗きんとんをつまみながらそんなことを考えていると、後ろからがしっと肩を掴まれた。
「食い終わったらちょっと顔貸せや……」
「あ、はい……」
お兄さんが、腹の底からひねり出したような声で、俺を誘う。なんだろう、リンチかな、それだったらいやだな、痛いし。
箸を置いたと同時に腕を引かれ、比奈の部屋と同じようにYUHIとネームプレートがかかった部屋に連れ込まれた。
幼馴染たちは、モヤシのほうはざまあ見ろと言いそうな顔をしていたが、筋肉のほうは何だか俺に同情するような視線を送っていた。
「えーと、キリュウ、ヒサトだったっけ」
「はあ……」
「何ヶ月」
「え?」
「比奈ちゃんと何ヶ月」
「えと、四ヶ月くらい……」
「どこまで行った」
「は?」
ぎりぎりとにらまれて、正直にキスまで、と答えてしまう。アホか自分。
ちょっと安心したような顔で、お兄さんは質問を続ける。
「遊びじゃないだろうな」
「当たり前じゃないですか」
「だろうな、そうだったら吹っ飛ばしてやるところだ」
小柄は小柄だが、俺はパワーはほとんどないので、おそらく本気でやられたら負けているだろうな、と思う。真剣に体力がほしい。