愛してるから縛るのだ
07

「そういえば、お兄さんに挨拶するの忘れたな」
「あっ、そうだ、先輩、あのねあのね、お母さんが、先輩におせち食べにおいでって!」
「そう? じゃあお邪魔しようかな……」

 電車に乗り込むと、意外と混んでいた。初詣でに行くのだろうか振袖のお姉さんがちらほら見受けられる。比奈がそれをうらやましそうに眺めているのに苦笑して、満員電車とまではいかないがけっこう混んでいる車内のシート脇の三角地帯に比奈を押してすべりこませ、それに覆いかぶさるようにしてスペースを確保する。
 身長差から上目遣いになるのは当然なのだが、見上げられるとどきりとする。大きな黒目がちの瞳が愛らしくて、小動物的な可愛さというか、そんなようなものがあって、庇護欲をそそられる。
 ううん、可愛いな。
 神社は、わりとこの辺りでは大きいためやはり人があふれていて、人込みに酔いそうになっている比奈をうまく誘導するのが大変だった。なんせちょっと手を離しただけで人波に飲み込まれて遠ざかってしまうのだ。
 そんなこんなで三十分近く並んでようやく賽銭箱の前にたどり着き、さらにおみくじを買いたいというのでそこにも並んで、散々だった。まあ、比奈が喜んでいたから別にいいのだけど。
 互いにおみくじを見せ合ったりしながら帰路につく。午前中は曇っていた空も、帰り道は晴れていて太陽が顔をのぞかせていた。

「比奈中吉かあ……」
「まあまあだよね」
「大吉がよかったなあ」
「大吉が出ちゃうと、今年の運をそこで使い果たした気がしない?」
「えっ」

 電車を降りて、比奈の家まで向かう。見えてきたマンションのエントランスに誰かが立っているのに気づく。あれ、もしかして……。

「あれ? お兄ちゃん?」
「比奈!」
「寒いのに、なにしてるの?」
「比奈の帰りを待ってたんだ、こいつに変なことされてないか!? 大丈夫か?」
「先輩は変なことなんかしないよ」

 よっぽど俺の外見が気に入らなかったのか、それとも比奈に近づく男すべてを許せないのか。とりあえず微塵も好意を持たれていないことは分かった。

「っていうか、変なことって何?」
「あ、いやそれは……されてないならいいんだ」
「ふーん……あ、先輩、比奈のお兄ちゃんなの」
「……はじめまして。桐生尚人と言います」
「それで、お兄ちゃん、あの、比奈の……かれし」

 恥じらって彼氏と小さく呟かれるのもまたいいな。なんてのんきなことを考えていると、お兄さんの眉間がものすごいことになっていることに気づく。