愛してるから縛るのだ
06

 北風が冷たい。マフラーに顔を埋めながら、コートのポケットに入れた手を握ったり開いたりする。
 寒いのは苦手じゃないが、好きでもない。正月の閑散とした住宅街を歩く。空は曇天だ。時折鳥の声が遠くから聞こえる。

「はー……さむ……」

 鼻の頭がかゆい。うつむき加減に歩いていくと、あっという間に比奈の住むマンションまで来ていた。エントランスには比奈の姿はまだない。
 入り口の手前にあるベンチに座って携帯を見ると、約束の十二時にはあと五分ほど時間がある。自販機でコーヒーを買うか迷って、比奈が来てからにしようと思い上げかけた腰を再び下ろした。
 と、エントランスの向こう側が、にわかに騒がしくなる。

「比奈、どうしても行くのか!?」
「行くよー。お兄ちゃんとは明日だからねっ」
「そうじゃなくて……!」
「あっ、先輩! あけおめです!」
「おめでと」

 もこもこの上着を着た比奈ちゃん、と、それにへばりついている小柄な男。誰だ?
 その男は俺を見るなり怒鳴り散らした。

「お前かっうちの可愛い可愛い比奈ちゃんをたぶらかしたのはっ!」
「は?」
「たしかに美形だそれは認める、だがしかし顔の良し悪しで人を判断したらいけない! お前絶対チャラ男だろ!」
「今もろに外見で判断しましたよね」
「お兄ちゃんやめてよー」

 お兄ちゃん? ああ、そういえば拓人に似た兄がいると言っていたな。これがそれか。たしかに暑苦しさで言えば似ているかもしれない。

「比奈、考え直すんだ! そんな男といても幸せになれないぞ! 比奈を幸せにできる男なんかこの世ににーにしかいないぞ!」
「お兄ちゃんも好きだけど、比奈は先輩も大好きなの!」
「だ、だだだだいす、だいすき……」

 ショックを受けたような顔のお兄さんをほうって、比奈が俺の腕を引っ張る。手袋までして防寒対策はばっちりなようだ。

「先輩、初詣で!」
「ああ、うん……お兄さんは、いいの?」
「お兄ちゃんは明日一緒に初詣で行くからいいんですよー」

 今日行ってしまったら、それはもう初詣でとは言わなくないか。と思ったが、問題はそんなことじゃないだろうと思うので言わないでおく。
 手袋をした比奈の手を取って、つなぎにくい、と思いながらも駅まで手をつないで歩く。