愛してるから縛るのだ
03

「ただいまー」
「……お兄ちゃん!」
「ああー比奈ちゃんただいまー!」

 時計を見るとちょうど午後三時。廊下を足早に抜けてこのリビングに続くドアを勢いよく開けて入ってきた雄飛兄は、比奈の姿を見るなりへにゃりと相好を崩し、彼女を抱き上げた。

「久しぶりだね!」
「今年は大阪に転勤になっちまったからなぁー、簡単には帰れなくて……会いたかったよ比奈ー」
「比奈も会いたかったぁ。おかえり!」
「比奈は可愛いなーもう可愛いなー」

 比奈の入学式以来の再会なだけに、抱擁は長々と続く。大阪に転勤になる前は、実家通いで一緒に暮らしていたためほぼ毎日会っていたが、大阪となるとそうもいかず、しかも雄飛兄はこれでも一応エリートなため、なかなかまとまった休みが取れないのだ。
 比奈にひとしきり頬擦りすると、雄飛兄は比奈を床に下ろしてその後ろのキッチンを見る。

「おっ、おせち作ってたんだな」
「こんにゃくが上手にできたの。はい、あーん」
「あーん」

 アホ丸出しだ。
 比奈にあーんしてもらえて一気に気分が上がったご様子の雄飛兄の顔ときたら、もうデレデレに崩れて鼻の下が伸びている。

「美味い! さすが俺の比奈ちゃん!」
「くふふ」

 いつ比奈が雄飛兄のものになったのか甚だ疑問だが、とりあえず俺が物心つくころにはすでに俺の比奈状態だった。
 比奈は心配性の雄飛兄のせいで行動をだいぶ制限されていたが、その分かなり甘やかされて育っているのでフィフティフィフティといったところだ。そして雄飛兄の厳しい教育により、俺と翔太は比奈が第一というある種の洗脳を受けている。さすがにここまで成長すると物事を広い視野で見ることができて、そこまで縛り付けられているつもりはないが、三つ子の魂百までとはよく言ったもので、俺たちふたりは根底が比奈至上主義なのだ。

「明日は初詣で行ったあと、初売り行こうか!」

 あ、まずい。この流れはまずい。

「あっ、明日はだめ。比奈、先輩と初詣で行く約束してるの」
「先輩? 学校の?」
「うん。比奈の、……かれし」
「……」
「きゃっ」