出会い誤解そして和解
09

 きらりと、教室に射し込む朝の光にそのストラップが光った。ビーズでできたブラウンのうさぎのチャームがついたストラップをぷらぷらと揺らしながら、どうしようかな、と思う。

「尚人、朝からいるの珍しいね?」
「ん? まあ……」

 クラスメイトの女の子が声をかけてきて、俺はまあ確かに、と相槌を打つ。朝から、と言うのは別に遅刻魔なわけではなくて、いや遅刻魔かもしれないけど、つまり朝のホームルームが始まるより早く俺が学校にいる、というのは珍しいことなのだ。
 昨晩も俺はよく眠れなくて、寝不足のまま学校へ来た。昼休み、どこかの空き教室か保健室のベッドで眠ろうかな、と思っていたけど、たぶんそんなことをしている場合じゃないのだ。

「その携帯、どうしたの?」
「昨日図書室で拾った」
「誰のだろう?」
「……まあ、目星はついてる」

 折り畳みの携帯を開いたが、特にロックがかかっているふうではなかった。住所録やメール、画像フォルダを盗み見るなんて悪趣味なことはしないが、一応持ち主特定程度には見せてもらったしアドレスも抜かせてもらって俺のアドレスも登録しておいた。
 ところでこの携帯を一晩所持していて思ったのだが、もしかして落とし主はこれを紛失したことに気が付いていないんじゃないかと。だって、メールも電話も一切こないのだ。ふつう、こんな個人情報のかたまりを落としたらまずは誰か善良な人間が拾っていることを祈りながら電話をかけてくるものでは。
 今日遊べるの、と続けて話しかけてきた女の子を適当にあしらいながら、俺はぱかっと携帯を開く。路地を歩く野良っぽい黒猫の画像が待ち受けになっていて、ふうん、って思う。
 そして昼休み、俺は持ち主のもとへとこれを返すべく、一年生の教室のある階に向かったのだった。

「比奈ちゃんいる?」
「あ、は、はい!」

 教室の入口のところにいた女の子に声をかけると、その子が緊張したように頬を紅潮させて比奈ちゃんを呼んでくれた。

「比奈!」
「ん?」

 くるりと丸い目でこちらを見た比奈ちゃんが、文字通り硬直する。ふと辺りを見回すが、梨乃ちゃんはいないらしい。

「比奈ちゃん、これ」
「……! 比奈の携帯!」

 俺が手の中でピンク色のそれを振ると、うさぎのストラップも一緒に揺れた。そして、比奈ちゃんがそれを認識してとことこと駆け寄ってくる。警戒心なさすぎるだろう。
 俺が持っている携帯に伸ばされたその手を取って、比奈ちゃんがあっと悲鳴を上げた瞬間に腰に手を入れて抱き上げる。