呼ぶだけで震える生命
13

「──?」

 失敗した。睦の肩を抱く拓人さんにいらっときて、彼の腕を引いてきたまではいいが、あたしたちはお互い意思疎通が図れないのだった。
 何を言っているかは分からないが、腕にあるあたしの手と背後を交互に見ていることから、急にどうしたの、といったところか。
 伝わらないと分かっていて、とりあえず日本語で返してみる。

「……拓人さんがうざいからです」
「──?」
「えっ? 何っ?」

 何を言っているのか分からないけど、このすべて分かっているようなにやにやした顔が拓人さんに似ていていらっとする。
 と、視界のはしに拓人さんと睦が映り、とりあえず逃げようと逆方向に向かおうとすると、そちらからは比奈と先輩が手をつないでやってきている。う、邪魔したくない。でもあっちに行かないと拓人さんたちに見つかる……。

「リノ!」

 なんて、迷っているうちに見つかってしまった。ついでに比奈たちにも気づかれてしまった。

「梨乃〜」

 比奈が手を振ってこちらに来る。ああ、先輩ごめんなさい、そんなしかめっ面しないでくださいよ……っていうかセーラー服脱いじゃったんですね、もったいない。

「なんだヒサト、スカート脱いでしまったのか? もったいない」
「うるさい」

 結局、あたしとミッキーさんと比奈と先輩、そして拓人さんと睦という大所帯で文化祭を回ることになり、なんだか先輩に非常に申し訳ないことをしたなあ、とあたしは上機嫌な拓人さんの相手をしながら思ったのだった。

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