呼ぶだけで震える生命
12

「こういうの『両手に花』って言うんだろう?」
「言いませんよ」

 リノは、俺の手を思い切り振り払って微笑む。まったく、困った照れ屋さんだ。
 両手に花、だろう? だって右には俺がいて、左にはミッキーがいるんだから。
 ミッキーは、学園祭が気に入ったらしく楽しそうにきょろきょろしている。……たまに美人な子を見つけて視線が尖るのはご愛嬌だ。

「あっ梨乃ー」
「げっ……」
「あれ、比奈は  一緒なんじゃないの?」

 突然リノに親しげに話しかけてきたお嬢さんに、リノはなぜか苦虫を噛み潰したような顔をした。

「比奈はホラ、先パイに拉致られた」
「マジで? じゃあ梨乃ひと、り……」
「……」
「……誰? 超イケメンじゃん」

 お嬢さんは俺を見てちょっぴり頬を染めた。イケメンってなんだったっけな……。

「はじめまして可愛いお嬢さん」
「はじめまして……梨乃すごっ、外人じゃん、彼氏?」
「違う」

 また照れている。素直に頷いていればいいのに。
 ミッキーがひとり蚊帳の外のように寂しげな顔をするので、俺が軽く説明すると「日本語を勉強しようかな」と呟いた。いいんじゃないか。復習がてらミッキーに教えてやろうかな。

「違うの?」
「こんなエセ外人興味ないし」
「おいおいエセとは失礼だな。ちゃんとItalianoだぜ?」
「手を離せ変態」

 腰に腕を回すと手の甲を抓られた。爪が尖っている分少し痛い。
 ところでこのお嬢さんはお一人なのかな?

「お嬢さん、お一人なら俺たちと一緒にいないかい?」
「えっいいの? お邪魔じゃあ……」
「このままじゃリノが両手に花だからな。それに、可愛いお花はいくつあってもいいのさ」

 にっこり笑ってお嬢さんの肩を抱くと、手の甲を抓っていた細い指が消えた。

「リノ?」
「あたしミッキーさんと回るから、睦に案内してもらえば。じゃあね」
「ちょっと、リノ……?」

 ミッキーの腕にしがみつき引っ張っていくリノ。なんだ急に、どうしたんだ?

「……えっと……梨乃をあんまりいじめない方がよろしいかと……」

 ムツミと呼ばれたお嬢さんが苦笑いする。いじめる? 俺がいつ可愛いリノをいじめたのさ。

「え、これわざとじゃないんですか?」
「ン?」

 肩にある俺の腕を指すムツミに首をかしげる。わざとって何がだ。そう聞くと、さすが外人、と呟きながら彼女は目を細めた。

「?」
「まあ、むやみに他の子の肩を抱かないほうがいいんじゃないかなって」
「……ああ、ヤキモチか」
「ですね」
「可愛いな、リノは」
「ははは」

 なんだヤキモチか、肩に手を回したくらいで妬くなんて、可愛いところあるじゃないか。
 ムツミと笑いつつ、いなくなってしまったのはしかたないので、彼女に案内してもらいながらリノを探すことにしよう。