呼ぶだけで震える生命
11

 キスしたいから手をどけて、と自分でもだいぶ意地が悪いと思うけど呟いてみる。……案の定、ぶんぶん首を振って拒否され、ぽすんと俺の肩に額が落ちた。
 熱があるんじゃないの、ってくらいに熱い額が肌寒い教室の空気にはちょうどよかった。
 しばらくの間、文化祭の喧騒を遠くに聞きながら照れまくって混乱している比奈をゆるく抱いていたのだけど。
ふ、と聞こえた音に眉を寄せた。

「……嫌な予感」
「う?」

ガラリと教室のドアが開く。

「尚人! 仕事に戻れっ!」
「……超お邪魔なんだけど」
「あっごめん」

 謝りつつ、辺りに散らばる女装グッズをかき集めながら俺ににじり寄るクラスの女子。絶対悪いと思ってないよな。

「午後は俺と比奈は一緒に回る約束してたから……もう終わり」
「えぇーっ!?」
「ねっ比奈?」
「んっ……はい、……?」

 とろとろとした顔でよく意味が分かっていないような比奈を頷かせて、抱きかかえるようにしてその場を足早に去る。
 背後から、「明日もよろしくね」という悪魔の囁きを聞きながら。

「どこ行こっか」
「先輩、お昼ご飯食べた?」
「まだ」
「じゃあ、えーと」

 その辺に落ちていたパンフレットを拾い、比奈と一緒に覗き込む。

「じゃがバター食べたい」
「じゃあ、あっち!」

 手をつないで、中庭のほうへ向かう。最近は手をつなぐのも慣れてきたようで、わりと自然につなげるようになってきた。嬉しいけど、最初の頃のうぶな反応も好きだから、少し複雑だ。
 まあ、でも、これから先手をつなぐより難易度の高いキスとかその後のあれこれもあるので、しばらくは初々しい反応は続くのだろう。

「ってか、できるのか?」
「え?」
「いや、こっちの話」