呼ぶだけで震える生命
09

『タクト、あの子の名前なんて言うの?』
『ヒサト。前に話したろ?』
『ああ、あの従弟のこと? まさかあんなに美人だとは思わなかったよ』

 目を輝かせ、ヒサトをちらちらと盗み見るミッキー。
 ふむ。予想外に好評だったな。それにしても、本当に美しい。男に生まれてきたのがもったいないくらいだ。

『でも残念だな、ヒサトには麗しの仔猫がいるのさ』
『別に美人目当てで日本に来たわけじゃないからね、かまわないさ。だけどまぁ、ちょっと残念だな、ほんとに』

 ちぇっと小さく呟きながらヒサトを見据えた目は、完全に野生の狩人のそれだった。
 我が親友ながらちょっと恐ろしいぜ。

「拓人さん」
「ン? 何だい」
「先輩なんとかなりませんか」
「?」

 ミッキーとの会話の合間にまぎれてきたリノが、眉を寄せながら指差す。呆れたような表情のリノも素敵だ。
 陶器のような美しい指の示すほうを見れば、ヒナを誘惑する美女もといヒサト。なんだ。結局ノリノリじゃないか。
 さっきまでの落ち込みぶりはどこへやら、ヒナの顎を片手で支えて耳元に口を寄せて妖艶な笑顔を見せている。こうして見れば見るほど、恐ろしい美人だ。
 真っ赤になって目をきょろきょろさせるヒナは、いつもながら可愛いな。めんこい、と言うんだっけな、ああいう仔猫ちゃんを。この間、テレビで誰かが言っていた気がする。

「リノ、めんこいって可愛いって意味だよな?」
「よくそんな方言知ってますね」
「方言? どこの?」
「たしか北海道とか北のほうだったと思いますけど」
「へえ、リノは賢いね」
「……」

 うんざりしたような顔で、リノが俺を見る。なんだ? ……まあいい、リノみたいなタイプのことをツンデレというとこの間テレビで言っていたからな。なんだったっけ、普段ツンとしているが時々素直になる……うん、そんな感じのタイプだ。

『リノは、照れ屋さんだからな』
『タクト』
『ン?』
『ヒサト、仔猫ちゃんを連れて逃げたみたいだよ』
「Oh,no……」

 いつの間にやら、ヒサトとヒナは消えていて、頭を抱えたリノが男の格好をしたレディたちに謝罪しているところだった。