呼ぶだけで震える生命
07
最悪だ。今日はどこにも行かず接客もなるべくしないでこもっていようと思ったのに。なんでよりにもよってこのトリオが遊びに来るんだよ……。
「ダメだ死のう……」
「そんな。きれいですよ、自信持って!」
「そうだぜ。ヒナ、ヒサト、美しいよな?」
「……」
明らかに面白がっているふたりが、まったく嬉しくないことを言ってくれる。そして、拓人に聞かれた比奈ちゃんは、俺を見て固まっている。もういやだ、絶対軽蔑された、気持ち悪いとか思われた。人生終わった。短い間だったけどありがとう。
「ヒナ?」
「あれ」
頭の中で遺書を書いていると、比奈ちゃんの様子がおかしいことに気がついた。彼女の頬は真っ赤に染まって、俺を見ては目を逸らしまた見て、を繰り返して挙動不審になっている。
「はわわわ……」
「……」
「……照れちゃった?」
拓人と梨乃ちゃんが首をかしげて比奈ちゃんを見る。たしかに、この動作は照れているときのものだ。……どうして今、照れる?
「せっ、先輩きれいすぎるですよ……」
「……」
「……」
「きゃっ」
いや、きゃっじゃなくて。
真っ赤になった顔を覆って、比奈ちゃんが首をぶんぶんと振る。なんだかとても複雑な気分だ。
「尚人きれいだって! よかったじゃーん」
「うるさいな」
にまにまとこちらを伺ってくる純太が完全に女の子で、ある意味この喫茶店では浮いている。
嬉しくないぞ。彼女に女装したところ見られてその上きれいだなんて言われるなんて……女装が似合っていなくてアンバランスなのも美学に反するが、だからと言って似合うから喜べるかと聞かれると今度は男心に反する。要は女装なんかしたくない。