呼ぶだけで震える生命
06

「……ここはなんだ?」
「……制服交換喫茶、ってところですかね」
「と言うことは……」

 拓人さんがデジカメを取り出したのと、学ランを着ている女子の先輩がこちらに気づいたのは、ほぼ同時だった。

「あ、相沢さんだ!」
「尚人連れてきてくれてありがと〜。サービスしちゃうよ!」

 先輩は来ているのか。……と言うことは。
 あたしはそっと携帯を取り出す。そして、先輩たちはちょっと待っててね、の言葉とともにダンボールに仕切られた裏方のほうへ消え、何か言い争いをしているようだが……

「愛しの彼女が来たんだから接客しろよ!」
「やだ! 絶対やだ!」

 仕切り板のダンボールの向こうからぽんっと押されるように先輩が飛び出してきた。

「Wao,これはまた、可愛い仔猫ちゃんだな」

 セーラー服にクリーム色のカーディガンを着た、きれいな女の子になっている。
 メイクのおかげかいつもより血色のいい肌に大きな瞳は恥ずかしいのか潤んでいて目尻には朱が差し、しなやかな黒髪が映える白い首筋があらわになっている。カーディガンの下の紺色のセーラー服から覗く白く細い足は毛が薄く少々骨ばってはいるものの女の子のそれのような可憐さだ。背が高いけれど顔が可愛いのではなく美人寄りであるためほとんど不自然さを感じない。
 あたしは携帯、拓人さんはデジカメを構え、それぞれシャッターを切る。押されたせいで床に倒れ込んでスカートがきわどいところまでめくれあがっている尚人先輩を、さらにもう一枚。

「何撮ってるんだよ!」
「何って、先輩の雄姿ですけど」
「どこが雄姿だ!」
「amore,わめくなよ。可愛い顔が台無しだぜ」
「うるさい!」

 実にきれいだ。もともと素材はいいが、こんなに女装が似合うなんて罪だ。スカートのプリーツを気にしながら顔を赤くして立ち上がる先輩は、完全に女の子だった。もう少し背が低ければ完璧なのにまったく神は惜しいことをする。いや待てよ、このぎりぎり男だと分かる倒錯感がいいのかもしれないな。
 って、何を真剣に考えているんだ。あまりに似合いすぎていて思考回路が狂った。