04



「お前里玖さんのこと知らねぇからそんなのんきなこと言えんだよ」
「……?」
「姉ちゃんとデート中の里玖さんに会ったらぶっ殺されるぞ」
「えぇ!?」

 あゆむの口から、他人を恐れる言葉が出てくるなんて!

「そんなにやばい人なの……?」
「……お前が思ってるようなのとは、たぶん、違うけどかなりやばい」

 うわあ、あゆむよりずっと屈強で鋭い目で、ありがちに人と肩が擦れ合っただけで慰謝料要求するような、ヤのつく人とつながりのある人だったりして……すずさん、そんな人と付き合っていて大丈夫なのかな。でも、そんな図体でスターバックス好きなんて、なんだか可愛い。
 そんなこんなしているうちに、あゆむの家に到着した。住宅街の中に佇む、普通の一軒家だ。何度も来ているから、そんなに緊張することもない。おじさまには会ったことはないが、おばさまはとても優しくてやんちゃな方だ。でも、あゆむにもすずさんにも似ていないから、ふたりはきっと父親似なのだと思う。
 あゆむが鍵を開けようと手を伸ばすと、それより一歩早く内側から扉が開いた。

「あっ、あーちゃん」
「姉ちゃん……」

 あゆむがドアを開けたと同時に、飛び出してきたあゆむのお姉さん、すずさん。……今日は駅周辺でデートだったんじゃ……?
 制服のままの彼女を見ていると、後ろから爽やかな好青年、を絵に描いたような茶髪の、感じのいいお兄さんが出てきた。

「あれ、あゆむくん。おかえり」
「……ただいまっす」
「あーちゃん、今からあたしたち、おデートだからさっ、留守番よろぴく!」
「おう……なんで家にいんの」
「忘れ物したのー……あっ、ひよちゃん久しぶり〜!」
「あ、お久しぶりです……」
「相変わらず仲良し? 最近どー? そう言えばバナナ味のゴムあるんだけど、使う?」
「すず。あんまり大きな声でそういうこと言わないの。……はじめまして」

 にこり。
 と音がつきそうな、さわやかな微笑みで、好青年がわたしに声をかける。はじめまして、と返しながら、すずさんに半ば無理やり四角い小袋を握らされ、好青年を前に不健全極まりないものを手にしたわたしは途方に暮れた。

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