05
「今からどうせするんでしょ? せっかくだから使ったらいいよ」
「……え」
「じゃ、行ってきまーす」
好青年の、形のいい唇から飛び出した「今からどうせするんでしょ」発言にショックを受けているあいだに、ふたりは玄関から消え去っていて、あゆむが呆れた顔でわたしを家の中に引っ張っている。
「……留守番だってよ」
「あ、うん、えーと、今の人もしかして……」
「姉ちゃんの彼氏」
「……ほんとに? あの人があゆむより怖いの?」
「……」
やばい。
疲れたような怒ったような視線にさらされ、本能的にそう感じて必死で別の話題を探そうと頭の中を引っ掻き回す。ああ、どうしよう何も出てこない。
「あ、そういえばさっきすずさんから何かもらった……」
「バナナのゴムだろ。まんまじゃねーか」
まんま……まんまって……そんな言い方、やめてほしい。たしかにまんま、な感じは否めないが。
手のひらで温まってしまったそれを、あゆむが摘み取り、靴を脱ぐ。そして視線でわたしにも脱ぐように促した。
わたしが靴を揃えている間に、あゆむはそれを待たず玄関脇にある階段を早々とのぼっていく。それもいつものことなので、わたしは立ち上がるとそれを少し小走りで追いかけた。
「里玖さんの言うとーり、これは使うしかねえな」
「は?」
「こんなん大事に取っとく必要がねぇだろ」
「……たしかに」
今日は、スターバックスのソファ席でまったりするつもりで、全く、そういう不健全な予定はなかったのに……。
今さらそんなことを言っても仕方ないか、とため息をついてベッドの端に腰掛けると、すぐにあゆむが覆いかぶさってきてベッドの中央に押し倒された。
「あの、あゆむ……なんかさ、もーちょっと雰囲気って言うかさ、まったりムード? みたいな?」
「お前何言ってんの?」
「ッ」
有無を言わさぬ乱暴なキス。する前に少しだけでいいからイチャイチャタイムがほしかったとか思った自分が馬鹿でした。あゆむはそういう人間なんです。抵抗を諦めて薄く開けた口を更にこじ開け、舌が入ってきて容赦なく荒らす。
これが、この乱暴さが、けっこう心地いい、のだ……。
とろりと目を閉じてしまったわたしに、あゆむがにやっと意地の悪い笑みを浮かべたことなんて、知る必要のないことなのだ。
20060628
20080508
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