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 待ち合わせ場所に向かうと、傍目に見ても分かるくらいご立腹のあゆむがいた。急いで近寄って声をかける。

「あゆむ!」
「おそ……はあ?」

 ぎろっとわたしに視線をやったあゆむが、しげしげとわたしを眺め、ふうん、と声を漏らす。

「それで遅刻したの?」
「うん、ちょっと帯巻くの、手間取っちゃって……ど、どうかな」

 浴衣を軽くつまんで、あゆむの顔色をうかがう。白地に桃色のお花の柄だ。無言のあゆむの目が眇められて、あれ、失敗したかな、と思っていると、頭にぽんぽんと手が置かれた。

「似合ってんじゃね、かわいい」
「……?」
「でも遅刻は遅刻」
「うっ」

 花火大会。けっこう規模が大きくて、会場の近辺は人で埋め尽くされ、屋台もいくつも出ている。
 わたしが、行きたい、と駄々をこねたみたところ、あゆむが別にいいけど、と言ってくれたので、浴衣をこっそり着て驚かせようと現地集合にしたら、見事に遅刻した。しかも、連絡しようとしたら携帯の電源が落ちた。最近調子悪いんだよなあ……と思いながら、わたしは慣れない浴衣なりに精一杯急いできたのである。
 あゆむは時間をちゃんと守るほうだ。五分前行動は当たり前。だから、デートすると遅刻するのはいつもわたしのほう。反省です。
 周囲を見渡すと、浴衣の女の子がいっぱいいる。カップルもいっぱいいる。子連れの家族や友達同士もいっぱいいて、まだ花火までには時間があるけど、みんな雰囲気を楽しんでいるみたいだ。

「行くぞ」
「うん」

 あゆむはいつもの通り、Tシャツにジーパン。着物、似合うんだろうなあ……浴衣とか着流しとか!
 さっさと人混みに向かってしまったあゆむのあとを、はぐれないように追いかける。

「飯食いたい」
「たこ焼き? 焼きそば?」
「なんでもいいけど」

 とりあえず、そばにあった屋台で焼きそばを購入し、ふたりで食べる。食べ終わってごみ箱を探して歩いていると、背後から声をかけられた。

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