02



 今日は天気が悪いから、中庭とか屋上はあいにくで、俺が職員室の鍵棚からふたつあるからとパクってきた鍵の部屋、社会科準備室に行く。その道すがら、ひよはよっぽど趣味の合う奴が見つかったのがうれしいのか、今岡のことばかり。(ひよの趣味は友達にも理解されてない)

「でさ、今度ライブあるんだけど、わたしチケット取れなかったって言ったら、今岡くんが持ってるって。友達と一緒に行くはずが、その子に急な予定が入っちゃって一枚余ってるんだって」
「……」
「だから、わたしがいいなら一緒に行く? って誘ってくれて!」
「……」
「すっごく楽しみ!」

 準備室に着いた。
 無言でドアをスライドさせて、中に入る。ひよが入ったのを確認してドアを勢いよく閉めて振り返る。ひよがきょとんとした顔をしてるのが、ことさらむかついた。

「あゆむ? っきゃ」

 壁際に、ひよを追い詰めて壁に思い切り拳を振り下ろす。派手な音がして、ひよがびくっと肩を震わせた。

「お前さあ」
「……っ」
「馬鹿なの?」

 爆発しそうな怒りを押し込めて押し込めて、かろうじてそれだけ平静を保って言う。
 そうなんだよな、ひよは馬鹿なんだよな。
 壁に肘をつけて、ひよが逃げられないように囲い込む。

「分かっててやってんだろ?」
「な、なにが……?」
「わざわざ俺の前でほかの男の話して、こうなんの分かっててやってんだろ?」
「え……」

 本気できょとんとした顔をする。馬鹿じゃね、こいつ。分かってなかったのかよ、いらいらする、むかつく。でも、殴りたいのとはちょっと違う。

「俺が、いいよって言うと思った?」
「え?」
「男とふたりでライブ行かせると思った?」
「……でも」
「あ?」
「でも、めったにないチャンスだし、それにあゆむに許可取ろうとか思ってないもん……」
「馬鹿かお前」

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