01



 俺のものだって、知ってる。馬鹿みたいに俺一筋で、横からかっさらわれる心配なんか全然してない。むしろ、かっさらわれてもまた奪い返すだけだし。
 でも、むかつくものはむかつく。
 昼休み、ひよの教室に行くと、ひよはなんか知らん冴えない男と楽しそうに喋っていた。話すくらい別に、とは思うんだけど、男の視線がなんと言うかあからさまに夢見がちというか必要以上にうきうきしているというか。
 声をかけようと思ったのだが、喉まで出かかった「ひよ」が出てこなくて悶々とする。ち、と舌打ちすると、廊下側で喋っていた二人組の女の片方が俺に気づいて、ひよを呼んだ。

「旭さん、真中くん来てるよ〜」
「あっ、あゆむ」

 ぱああっとひよの顔がほころんで、それでいったん満足する。冴えない男にちらりと恨めしげに睨まれたが痛くもかゆくもないし、睨み返したらぴゃっと顔を逸らされた。売るつもりもないケンカを仕掛けてくるんじゃねえよ。
 歩きだす。ひよが後ろからついてきているのを確認して。
 小走りになって俺に並んで、ひよが話し出した。

「今度ね、今岡くんが、わたしの好きなバンドの廃盤になった幻のCD貸してくれるって」
「……」

 誰だよ……。
 頭にクエスチョンマークを浮かべた俺に構わず、話し続ける。

「なんか、音楽の趣味が似てるっぽくて」
「……」

 たぶんさっきの冴えない男の話をしているのだと分かった。
 俺が無言なのなんて、いつものことだから、ひよは気にしないでぺらぺらと今岡の話を延々続けている。
 そりゃあさ、俺とひよの音楽の趣味が合わないのは知ってる。音楽どころか、映画も漫画も、趣味全般が合わない。でもそれが何、って感じではある。
 付き合うとか恋人同士とかで重要なのってそこじゃないと思う。趣味が合うだけなら友達でじゅうぶんだろ。
 付き合うって、趣味が同じだろうが違ってようが、相手の好きを尊重したり、干渉しないでおける価値観じゃないのか。
 って思うから、ひよが友達と好きな音楽について話してても何してても、それ趣味悪いからやめろ、なんて言わないし思ってもない。趣味が悪いとは思うんだけど。

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