04



「……生きててよかった……」
「……馬鹿か、俺がそんな簡単に死ぬわけないだろ」
「……もう、けんかはやめてね」
「わぁってるよ」

 頭をかこうとして、両手が使えなくなっていることに気付いたあゆむが舌打ちした。ギブスでのろのろと頭を撫でて、そのままわたしの頭の上にぽん、と置いた。

「もうけんか売られても買わねぇから」
「うん」
「あと、さっき言いそびれたんだけど」
「うん?」
「俺、就職決まったんだ」
「は?」
「だから、抵抗しなかった」

 あゆむは大儀そうに起き上がり、腹にも包帯が巻かれているのに気付くと、ため息をついて言った。

「俺髪の毛黒いの似合わねえんだけど、金髪はさすがにやばいと思って染めた」
「……何」
「大工見習だけど、思ったより給料もらえるみたいだし」
「……」
「だからさ、卒業したら、俺んとこ来い」

 一瞬涙も止まる。

「え……」
「俺んち、姉ちゃんだけで寂しかったから、こどもはたくさんつくろうな」
「ちょっと、待ってよ、あゆむ」
「なんだよ」
「ど、どういうこと……?」
「簡単だろ。結婚すんだよ」
「……」

 頭がショートしてよく意味が分からない。こどもたくさん? 結婚? あゆむと?

「けっこん……?」
「あんだよ、文句あっか」
「……ない」
「決まりだな」

 にっと笑ったあゆむが、ギブスでわたしの頭を撫でる。わたしはまだ混乱していた。今の、もしかしてプロポーズ?
 理解した瞬間、涙がぼろぼろこぼれ落ちた。

「うわっ、なんだよお前」
「あゆむと結婚するうう!」
「だからさっきからそう言ってんじゃねーか」
「うわあああん!」
「ちょ、きたねぇ、おい、鼻水」

 あゆむのいない未来なんてない。そう思ってた。それは、あゆむも同じだったんだ。
 お化粧が崩れるのも構わずわんわん泣いていると、再び看護士さんが様子を見に来た。

「……どうしたの?」
「いや……別に」
「なんで泣いてるの?」
「さあ……」

 あゆむと看護士さんが首を傾げるその横で、わたしは思う存分泣いた。こんな幸せってほかにない。わたし今、たぶん世界で一番幸せだ。



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