03



「あゆむ、傷、大丈夫?」
「大丈夫なわけねえだろ……」
「あ、ナースコール」

 私はナースコールを押した。すると、細身の男性看護士がやってきた。それからあゆむが目を覚ましているのを確認すると、喋れるか、と聞いた。

「……なんとか」
「そう……警察の方が来てるけど、話せるかい?」
「……分かった」

 看護士さんがいったん出て行って、ふたりのおまわりさんらしき人を連れて戻ってきた。スーツなんだけど、明らかにただものじゃないって分かる感じの人たちだ。

「昨日、君はどこで何をしてた?」
「コイツの家出てから、普通に電車乗った」
「ええと、あなたは?」
「あ、えと、旭頼子です」
「恋人かな?」
「はい」
「それで、どうしてあんな状況に?」
「最初はひとりだったんだよ、いちゃもんつけてきて、河原のほうまで来いっつわれたから行ったんだ」
「ふむ、それで、人数が増えたのは?」
「すぐだよ、もともとそういうことだったみてぇで、……とにかく、いちゃもんつけてきたから、やる気になって、そっからは……」
「通報した少年からは、君は無抵抗だったって聞いたけど」
「……」

無抵抗? あゆむが? そんなはずない。売られたけんかはきっちり買ってお釣りがくるほどぼこぼこにするあゆむが無抵抗なはずがない。劣勢でも、あっさり諦めるような人じゃない。

「どうして抵抗しなかったのかな? スタンガンか何かを?」
「……別に、それはあんたらに関係ないだろ」
「正しい話を聞きたいんだ。君が抵抗していれば、ひょっとしてこんな大事にはならなかったかもしれないだろう?」
「……」
「……仕方ない。また後日話を聞いてもいいかな?」
「……」
「君も、これを機会に暴れるのはもうやめなさい」

 あゆむが、しぶしぶ頷く。そもそもあゆむは、自分からは絶対に仕掛けない。相手が勝手に突っかかってくるだけなのだ。それを、今まであゆむが好戦的だったかのように言うのに、ちょっと腹が立ったのだろう。
 おまわりさんたちはそれから、何点かを聞いて、出て行った。わたしは、泣きながらあゆむにすがりつく。

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