02



 総合病院に着くと、入り口にすずさんの恋人の東堂さんが立っていて、わたしは病室に案内された。
 そこには、顔中包帯でぐるぐる巻きにされたあゆむが、静かに横たわっていた。わたしは駆け寄ってあゆむの手を取ろうとして躊躇した。点滴の針が腕に刺さっているのだ。

「あ、ゆむ……?」
「あーちゃーん……うえぇっ」
「ええと、旭さん、あのね」
「あっ、はい……」

 泣いているすずさんの代わりに、東堂さんがおおまかな事情を説明してくれる。

「昨日の夜、家に帰ってこなかったんだって、それで家族は皆心配してたんだけど……警察が言うには、十人近くから一方的なリンチを受けてたみたいで、だんだんエスカレートしてきて怖くなった奴が警察に通報したらしいんだ。その時にはあゆむくんはもう……」
「……」

 目の前がくらりと歪む。いつか、そんな日がくるんじゃないかと思ってた。一匹狼で、勝手に舎弟は増えていくけど、徒党を組んでいる人たちからすれば気に食わない存在だったはずだ。二、三人を相手にしても勝てるあゆむは、だけど、十人なんて……。
 今にも目から涙がこぼれ落ちそうだったけど、耐えた。そして、包帯で見えなくなっている頬をさする。

「あゆむ」

 ぴくり、とあゆむの身体が動いて、片目が開く。もう片方の目は、眼帯で見えない。

「あゆむ?」
「……う」
「あーちゃん!」

すずさんがあゆむに飛びついた。

「いてえええ!」
「あーちゃん何してんだよ! 心配したんだよ!」
「いてえからどけよクソババア!」
「……なんだ、思ったより元気だなあ」
「……」

 東堂さんが気の抜けた声で言う。でも、わたしはまだ心配だった。

「すずさん、痛そうですよ」
「あ、あ、ごめん、父さんたちに電話してくる」

 すずさんが涙を拭って病室を出て行った。それに付き添って出て行った東堂さん。病室に、わたしだけが残された。

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