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 受験とかいろいろ考えなくちゃいけないんだけど、わたしは全然そんなことを考えていなかった。というか、未来は不明瞭だ。
 大学に行く気はあんまりない。でも、じゃあ就職すんのかと言われると、それもしっくりこない。でも、進学か就職はしないといけないよね。進路希望のプリントを前に悩む。

「あゆむは、進学するの?」
「就職する」
「えっ」
「なんだよ」

 あゆむが、根本が明るい茶色に戻りかけた金髪をいじりながら、こともなげに言った。

「ど、どこに?」
「まだそんな決まってないけど」

 お弁当をつつきながら、わたしはむっつり考える。
 あゆむのいない未来なんかない。でも、就職したあゆむと一緒に歩く未来って、どんなだろう。不透明。
 なんだかさみしくなってしまって、わたしは進路希望のプリントを、なかなか提出できずにいた。
 そんなときに事件は起こった。
 あゆむが入院した。と、お姉さんのすずさんから連絡があった。朝のホームルームがはじまる少し前のことだ。わたしは、すずさんと通話状態のまま、今置いた鞄を背負いなおして階段を駆け下りもたもたと上靴とローファーを履きかえ、止める教師の声も聞き流して学校の前の下り坂をいっぺんに駆け抜けた。

「ど、どうして入院なんか!?」
「きょ、今日の朝、えぐっ、病院と警察からっ、電話、あって、」

 すずさんはもう泣いている。病院名を聞きだすと、私は最短ルートを頭の中ではじき出して、ホームへの階段を駆け上がり、ちょうどやって来た急行に乗り込んだ。さすがに通話はできないから電話は切ったが、その前にすずさんが詳細を話してくれた。

「集団、り、りんちで、顔とかめちゃくちゃで、意識戻んなくって……どうしよう、頼ちゃん……」

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