02



 答えはない。はしごを上りきってあゆむをよく見ると、規則正しい寝息を立ててすっかり熟睡モードに入っていた。わたしは、しゃがみ込んであゆむの寝顔を観察する。
 目を閉じてると、けっこう可愛いんだよね、眉間のしわもないし。無防備に眠るあゆむの浅黒い頬をぷにっと押すと、けっこうな弾力で押し返された。うらやましいぞ、この野郎。
 つんつん、としばらく頬を押して楽しんで、わたしは彼を起こそうかどうか迷った。
 こんなに気持ちよさそうに寝ているのに起こすのはなんだか忍びないけど、起こさなかったらそれはそれで昼飯を食べ損ねた、と文句を言うのだろう。
 軽く開いた薄い唇を見ていると、なんだかむらむらっとしてきた。わたしはあゆむの顔に顔を近づけて、軽くキスをした。と、思ったら、後頭部を押されてわたしの口内に舌が侵入してきた。

「んー!」

 ひとしきりわたしの口内を弄んだ舌は最後にわたしの唇を舐めて、そのあと、ちゅっと軽いリップノイズがするような終わりのキスをした。

「あゆむ……いつから起きてたの……?」
「……お前が人の顔押すから嫌でも起きるだろうが」

 後頭部に回っていた手はいつの間にか腰に回され、わたしは寝転んでいるあゆむの上に乗る体勢になった。

「あの、この格好恥ずかしいんだけど……」
「あっそ」

 あゆむの胸に顔を埋めると、香水のかおりがしない。今日は何もつけていないのかな。

「あゆむ、おひさまのにおいがする」
「ああ?」
「香水は?」
「今朝急いでたんだよ」

 あゆむは早朝スーパーの仕入れバイトをやっている。一時間目に遅刻してくるなんてしょっちゅうだ。
 朝早く起きる代わりに授業中眠っているし。

「わたし、このにおい好きだなあ」
「……お前、俺ならなんでもいいだろ」
「うん」
「……馬鹿?」

 派手な柄のパーカーを着たあゆむは、太陽のにおいに包まれていて、それはとても優しいにおいで、わたしはもう一度息を深く吸い込んで、気付く。

「あゆむの肌って、赤ちゃんの粉ミルクみたいなにおいがする」
「ぶっ殺すぞ。洗剤だ」
「洗剤かあ」

 ところで、こんなに太陽のにおいがするなんて、彼はいったいいつからここに寝そべっていたのだろうか。謎である。
 しかしまあ、そんなことはどうでもいい。わたしは目を閉じて、あゆむにぎゅっと抱きついた。


20100601

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