01



 授業開始のチャイムが鳴る。あゆむは先の休み時間にトイレに行ってくると言ったきり、戻ってきていなかった。
 二時間連続サボりかな……やや断定的にわたしは思い、英語の教科書を取り出した。
 退屈な授業をやり過ごしながら、窓の外を見る。きれいな雲ひとつない青空が広がっている。こんな日は、屋上でランチするのが気持ちいい。

「はい、ここテスト出るからねー」

 ぱっと顔を黒板に戻して、ノートに写した成句の下に赤線を引く。
 チャイムが鳴って、先生は慌てて口早に説明をはじめた。授業は少し昼休みに食い込んだけれど、文句を言う生徒はいない。ひとえに先生の人柄からだ。
 私は、机の横に提げていた赤のチェックの紙袋を持って、屋上を目指す。きっと彼は屋上にいるだろうから。
 屋上に行く途中、桐生くんが気だるげに前を歩いていたので声をかける。

「桐生くんも屋上でご飯?」

 振り返った彼は、面倒そうにわたしを見て、ぼそっと呟いた。

「今から理科室でたぶんセックスする」
「……あ、そう……」

 桐生くんはあゆむの友達だけど、どうも苦手だ。ものすごく美人だけど、それが故か冷たい雰囲気だし、女好きだし、何より目が死んだ魚のようなうつろなもので、彼は現実世界に生きていないんじゃないかと思うくらいだ。声も感情も起伏が少なく、わたしは彼の驚いた顔や怒った声なんかを見聞きしたことがない。

「人体模型とホルマリン漬け相手に露出プレイだよ。悪趣味だよね」
「……」
「めんどくさ」

 そう言って、桐生くんはすたすたと渡り廊下を進んでいった。たしかに悪趣味だ。しかし、悪趣味だよね、と鼻で笑った桐生くんは、別にそんなことはどうでもよさそうだった。
 そんなことを考えているうちに、屋上に続く扉の前に着く。
 押すと、蝶番がぎしぎしと音を立てて、青い空が目に飛び込んでくる。ドアを閉めて見回すが、あゆむはいない。
 給水塔のある一番高いところに続くはしごを上っていくと、きらきら輝く金色の髪の毛が見えた。

「あゆむ」

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