06



 手に握り締めていたタオルで、あふれてきた涙と口をこすった。
 こすってもこすっても、最悪の感触はどこまでもまとわりついてきた。
 頭がごちゃごちゃしてきて、泣きすぎて鼻の奥がつんとして、目の筋肉が疲弊して痙攣するのを感じる。
 そろそろ泣き止もう、と冷静に考える。冷静、と言うよりかは、呆然、というのが恐らく今の状態だ。ぽっかりと、ある事柄を考えるための器官が、きっと抜け落ちているに違いない。何で泣いていたのかも、一瞬理解できなくなった。
 だけどそれは本当に一瞬で、ああこういうのを、現実逃避って言うんだよな、きっと、とぼんやり納得した。
 静かな保健室に除湿機の機械音と、わたしの鼻をすする音だけが響いて、あとはとても静かだ。

「頼子ッ!」
「!?」

 ドアが激しい音を立てて開いて、友達が乗り込んできた。ふたり。
 音に負けないくらいに声を張り上げ、それに思わず涙も鼻水も一瞬重力に逆らったんじゃないだろうか、それくらいに驚いた。

「な、なに……?」
「えっやだ、何その顔」
「……なるほど、これで合点した」

 しかめっ面でわたしの顔を非難して、眉間を揉むようなジェスチャーとともに大仰にため息をついた。
 はて、と未だ呆然としている頭で、彼女たちがいったい何をしにここに来たのかを聞こうとすると、それよりもはやく口を開く。

「それどころじゃないの、頼子はやく立って!」
「へ?」
「あんたしかアイツのこと止められないんだから!」
「へ?」

 両腕を、それぞれに引っ張られ、わたしは強制的にソファから立たされ保健室から押し出された。
 まさか、アイツって、と思って振り返ると、予想通りの、そして最悪の答えが返ってきた。

「真中が三階の廊下でキレてて手ぇつけらんないの!」

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