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「旭ッ」
「……ん?」

 呼ばれた気がして振り返ると、隣のクラスで体育の授業の時にやたらと話しかけてくる花田くんが、廊下を小走りにやってくるところだった。

「どうしたの?」
「いや、今日さ、昼休みの前、ちょっと時間いい?」
「……今じゃだめなの?」
「あー、今はちょっと……」

 あいまいに言葉を濁す花田くんに、なんとなく去年の出来事がデジャヴ。
 クラスメイトに告白されて迫られているのをあゆむに目撃され、その場でお仕置きを受けたという、記憶から消し去ってやりたいくらいの悲惨な事件だ。
 あゆむは終わったあと、「ぼうっとしているお前が悪い」と、ずいぶんご立腹だった。
 あれ以来、できるだけ男の子と二人きりになることは避けているし、告白らしきものを受けても謝って断って即刻逃げたりと、努力もしている。
 あゆむの機嫌を損ねるとどうなるか分からないというのもあるけど、何よりわたし自身、あゆむにそういう嫌な思いはさせたくないからだ。

「……お昼は、無理だよ」
「ほんのちょっとでいいんだ! ほんの五分だから、裏庭で、旭が来るまで待ってるから」
「あ、ちょっと」

 断ろうとしたのに、花田くんはさっさと背を向けて来た道を引き返してしまった。
 困った。裏庭で五分って、うぬぼれるわけじゃないが確実に告白じゃないのか。
 万が一リンチだったとしても、それはそれであゆむがブチ切れしそうで怖い。
 どうしよう。普段なら即決で行かない、を選択するんだけど、花田くんってどこか爬虫類のようでこわい。顔が、と言うより目が獲物を狙う目つきというか。あゆむの肉食の大型獣とはちょっと違う、隙を狙っている感じが嫌だ。
 そんな花田くんに待ちぼうけを食らわせるとあとあと面倒なことになりそうなので、わたしは、急いで花田くんの呼び出しに一秒応じるくらいの気持ちで、裏庭に行くことにした。
 というわけで、昼休みの前の授業が終わったと同時に、弁当を持って教室を飛び出す。
 あゆむがこの時間サボってくれていて本当に助かった。
 走って裏庭に行くと、花田くんはもう石のベンチに座っていた。
 ちなみに、この裏庭というのがまた、いかにもという雰囲気の、湿った空気が好きな植物がはびこる陽の当たらない、B級ホラー映画の撮影にうってつけな不気味さを醸し出しているのだ。

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