08



 一ヶ月付き合って分かったこと。
 ひよこ(と呼ぶとなぜか不機嫌になるから、最近はよりこって呼ぶ)は、とにかくどんくさくてトロくて可愛い。俺と手を繋いでいても、何もないところでこけるし、こっちが投げかけた言葉に対しての反応は遅いし。
 ヤッてるときがひたすら可愛い。
 切なげに目を細めて、溢れそうなくらいに涙を溜めて、頬は真っ赤に染まって、よたよたとしがみついてくる。
 こう……何と言うか、手のひらに乗ったハムスターやなにか小動物を可愛さのあまり握り潰したくなる衝動に近い。あまりに可愛いから、毎回毎回加減が出来ないし、このまま抱き潰そうかと思ったことも一度や二度ではない。
 それを純太に言ったら、「いじめっこ」とからかわれ、尚人からは「DV」となじられた。言っておくけど、暴力はふるってない。うざいと思えばたまに頭を軽く突くけど、そんなのはどこの誰でもやっている。
 ふたりが声を揃えて言うには、「小動物握り潰そうと思ったことなんかないし」だと。
 今日も俺の部屋に頼子が来て、俺の隣でぐったりとベッドに沈み込んでいる。
 ほんとコイツ体力ないな……ああ、でも今日は俺も、体育の時間に動きすぎたせいか、少しだるい。
 役目を果たしたゴムをゴミ箱のほうに投げると、スポッと吸い込まれるようにナイスゴール。そのままボーッとゴミ箱を眺めながら、さっきまでの頼子の悩ましい顔を思い出していると、ふと横から視線を感じた。

「……ひよ?」

 頼子は、静かに泣いていた。
 腰が痛い、と妙な言い訳をしてめそめそするが、そんなことでいつも泣いていないし、第一、なんと言えばいいのか、痛みによる泣き方じゃない。と思う。泣いている理由を問いつめたいけど、聞いてもたぶんどうやって慰めたらいいのか分からないし、頼子が言わないのに俺が聞くのはなんだか腑に落ちない気がして、言葉は出なかった。
 どうしようかと思案しながら、汗で少ししっとりと濡れた髪を梳くと、なんだか泣きに力が入った気がした。

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