06



「ひよ」

 放課後、ひよこの教室に迎えに行くと、そいつは携帯とにらめっこしていた。……俺を無視するとはいい度胸じゃねえか。
 何度か呼ぶと、「え、わたし?」となんとも間抜けな声で目をぱちくりさせた。なんだコイツ、やっぱり馬鹿なのか。先生に何度も呼び出されていると言うのは、ひょっとして話を聞いていないからじゃないだろうか。
 なかなか立ち上がらないし、歩いたら歩いたで遅いしで、もともと気が長いほうじゃない俺は、ひよこの腕を掴んで歩かせた。
 自分で歩こうとせずに引きずられるようにしてるひよこ。トロい女だなちくしょう、自分で歩こうという意思はないのか。

「ちょっ、と……真中君速いよ!」

 もつれそうな足でほぼ走りながらついてきたひよこは、「わたしはひよじゃない」とか訳の分からないことを叫びながら思いっきりつんのめりやがった。
 あ、こいつチビで足短いから俺と同じ歩幅で歩けないのか。ようやく納得して、ちょっとばかりスピードを落としてやると、なぜか頬を染めるひよこ。なんだよ可愛いことすんなよ。
 腕を掴んでいた手を、ひよこの手と繋ぎなおしたら、久しく女と手なんか繋いでなかったからなのか、やけに小さく感じて、伝わる温度と小さな鼓動がなぜか俺を安心させた。
 ふと後ろを振り向くと、相変わらず間抜けな顔したひよこがいて、可愛かった。
 昨日から悶々としていた欲がようやく吐き出されようとしている。やりたいって思ったらなかなか我慢できなくなるのは、俺だからなのか、それとも地球全土の男がそうなのか。
 ベッドの上で、ひよこの、女の平均なんだろうけど俺にとったら随分小さな体を抱きすくめると、昨日の甘いにおいが更に濃くなる。
 チラと顔を見ると、なんだか心ここにあらずといった感じで。

「何見てんの?」
「……可愛いわんちゃんだね」

ああ、後ろのカレンダーか。

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