05



「……何見てんの」
「は、え?」
「さっきからすげーガン見じゃん。俺の顔なんかついてるわけ?」

 今日の昼休みに頭の中で裸に剥いたばかりだから、どうにもその視線が落ち着かないでいらいらする。別に悪いなんて思ってはいないしひよこ本人は知らないことなのだが、どうにもやりづらいのは仕方ないことだ。
 首を振ったひよこに悪態をつくと、ごめんと一緒に返ってきた言葉は意外なものだった。

「やっぱりかっこいいなあって、…………あ」
「あ?」

 ピシッと音を立てる勢いで、ひよこが固まった。
 なんだ、やっぱり見てるのは、尚人じゃなく俺だったのか。あいつの勘も馬鹿にできない。
 どうしよう、を絵に描いたような表情で、ひよこはおろおろと視線を床にさまよわせている。
 なんだかそれがどうしようもなく、俺の中の何かを刺激した。平たく言うと、可愛いと思ったんだと思う。
 手が、勝手にひよこの顎に伸びた。と手首をひねってひよこの顔を上向けると、事態を把握しきれないのか目を白黒させていて、ますます可愛い。
 そのままキスしてみると、案の定再び固まった。いちいち反応がおかしいし可愛いし……なんかいいかも。
 近づいたひよこは、甘くていいにおいがした。

「んんっ……」

 舌を絡ませると、呼吸が苦しいのか鼻から抜ける吐息が妙にエロくて、少し興奮する。
 ひよこも俺のこと好きらしいし、俺もひよこのこと好きみたいだし。何も問題はない。
 ところで、勃っちまったコレはどうしたらいいんだろうか。

「お前このあとヒマ?」
「え? ってかこれから先生来る……」
「あ、そっか」

 とりあえず、ひよこの携帯に俺の番号を登録して、自分の携帯にもひよこの番号を控える。
 登録し終わったちょうどその時、サル山が来て「お馬鹿ふたりはもうやる気ねーなら俺様のオススメプランでいいよね」と半ば強引に一緒の選択を取らされた。
 まあ、ひよこのことは知らないが、俺としてはどの科目でもよかったわけだし、悩む隙を与えられなかったというのはラッキーだ。
 ……なんかひよこに言い忘れた気がするんだけど……なんだっけ?
 まあ、いっか。
 この「まあ、いっか」が、後にちょっとした思い違いを招くことになるとは知らず。

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