04
そしてその日の放課後、俺は先生に呼び出された。
原因は、俺が二年次の選択科目の紙をもらってすぐ紙飛行機にしたから。やりたい科目なんかひとつもなかったし、そもそも普通科は選択科目が少ない。こんなことなら理数科受験しとけばよかった、と思っても、よく考えたら俺の脳みそじゃ理数科にはちょっとどころかかなり足りないのだった。
ホームルームが早く終わってしまったから、生徒指導室でひとり暇を持て余す。早く来いよなサル山、と呟いてみた声は白い壁に反射して空しい。サル山もとい沢山は進路指導の先生で、顔がサルみたいでしかも毎朝残り少ない毛の手入れを欠かさねぇから故の親しみこもりまくった愛称である。
眠たくなってきたので、長テーブルに突っ伏していると、ドアが開いたような気がして顔を上げるが、閉まっている。あれ、今たしかにスライドされた音が。
「失礼します……」
もう一度、ドアが開き、ひよこが教室内に首だけ突っ込むように俺の様子をうかがっている。
「……」
「……」
なぜか気まずそうに部屋に入ってくるひよこ。うつむいて、そのくせ俺のほうをちらちらと気にしながら、ひとつ向こうの椅子に腰掛ける。
「お前も呼ばれたの?」
「え?」
「俺選択の紙出してねぇから呼び出しくらったんだけど、お前も?」
気まずそうな、困ったような表情のままうんと頷いたひよこの声は、想像したよりも高くはなくて、でも耳障りのいい甘さのあるものだった。
「真中君もなんだ?」
「……なんで俺の名前知ってんの?」
「かか風の噂で!」
「……あ、そ」
風の噂、て今時誰も使わないだろうな……もしかして人生で初めて、人間がそれを口にしているのを聞いたかもしれない。
と、どうでもいいことを考えていると、隣から痛いほどの視線を感じた。目だけそちらにやると、どうやら俺の横顔をまじまじと見られているらしい。
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