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かにばりずむ注意。

ギンと誰か。






じい、と眼下の屍を見遣った。安っぽい程に赤い血を撒き散らして、その臓をぶち撒けて僕の足の下で死んでいる鬼。乱菊が死んでから、数日。僕は遂にこの男を探し出し、殺めた。唇の内側では未だ乱菊の屍肉の味が消えない。甘い甘い、それでいて酷く生臭い肉の味。柔肌にこの牙を突き立てて噛み千切った何とも云えない感触。骨を噛み砕いた時の呆気なさにも似た感情。自身の血に濡れた彼女の輝く金糸。全てが網膜に、脳裏に、鼻孔に、舌先に、張り付いて剥がれ無い。何時でもまるでつい先のことの様に黄泉返る。

「僕はお前が嫌いや」

乱菊と僕の間に在ったのは燃え上がる様な愛でも、いじらしい様な恋でも無い。二人を繋いでいたのは、紅い紅い運命の糸。お互いにお互い以外の相手を知らぬ、複雑なそれでいて酷く単純に絡み合う関係。乱菊と僕は恋人でも何でも無いから、彼女の愛は彼女の好きにしたら良いと思うけれど。それでも鬼だけは。彼女を殺す鬼だけは許したくはなかった。乱菊を守るのが僕の務めだと、そう約束したのに。なのに、あの鬼を乱菊は愛して終った。愛して愛して、その腹に北辰を宿した。

「お前のせいで乱菊は、」

死んだ。お前の植えつけた子供のせいで。お前を愛した乱菊は悪くない。乱菊の血を受け継ぐやや子も悪くは無い。足元の血肉の塊を踏み付ける。ぐにゃり、とした感触が皮膚を通して伝わった。

「お前さえ、おらなんだらえかった」

悍ましい悍ましい。この手で引き裂いた鬼の骸。触れるのも嫌になる、乱菊の愛した男の屍。元が何色かの判別もつかぬその眼が此方を見ていた。光の無い正に死んだ魚の様な安っぽい視線で僕を睨んでいる。

「ああ、気持ちが悪い」

僕は再度脚を少し持ち上げると、此方を見詰めた侭の両の眼球を頭蓋と共に踏み拉いた。




(君以外の全てが要らなかった)






乱菊さんを食べた後に鬼を殺したギンのはなし。

次は子供との絡みを書きたい。




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