1







「ねえ、ギン。ここにね、やや子がいるのよ、」

愛おしいあの人の子よ、そう言って乱菊は膨れた腹をその白い指の腹でそっと撫ぜた。僕は彼女の前に座って、その腹を細めた双眸の奥で見詰める。乱菊の愛した、あの鬼のやや子。母体を殺めて生まれて来る赤子。乱菊を殺す、子供。彼女は僕の頬に両の手を伸ばす。かり、と頬を紫色に彩られた長い爪が引っ掻いた。血が彼女の指先を濡らす。視界の端にちらと映ったそのさまは何如にも死化粧の様に見えた。

「私が死んだら骸を喰べてね、」

ギンの綺麗な瞳が無くなって終うのは勿体無いもの。乱菊の唇が、諾々と毒を紡ぐ。彼女が鬼を愛し、その結果望んで死ぬことになろうとも僕は使い魔の運命に殉じる心積もりだったのに。彼女はそれすらも許さぬと云う。主の屍肉を食んで生き永らえよと云う。爪が肉に食い込む。じくりとした痛みが皮膚の下を駆け抜けた。

「それからね、ギン。この子を守ってあげて。」

紅を引いた唇が再度毒を撒き散らす。僕に乱菊を殺す子を守れと云う。愛おしい乱菊の血を半分受け継ぎ、乱菊が愛する子を守れと云う。正にファム・ファタール。だけれど僕の爪は、僕の牙は、僕の力は全て彼女の所有物。ねえ、と艶やかに微笑む彼女に逆らう術も旨も無い。

「ええよ、僕の全てに賭けて誓うたる」

そう言って頬からそっと乱菊の手を避けた。軽く握ったその手は子を孕んでいるからか常よりも暖かく感じられる。乱菊を殺す子供でも、乱菊が愛しいと思うのなら、その子はきっと僕にとっても愛おしい子。その意味合いは違えても、愛することには変わりない。

「約束よ、ギン」

「せやね、」

僕は彼女の手にそっと唇を這わせた。触れるだけの口付けを落とす。菊の花の甘い香が鼻孔をじっとりと犯した。




(泣きたい気持ちも棄てて終おう)




ぞんぜろぱろ。

使い魔ギンと、魔女な乱菊。
乱菊の愛した人は決めてないです。

ギンは乱菊が愛した人なら、憎くても拒まないと思う。(でも、乱菊が死んだら多分殺される。)
乱菊が子を生みたいなら、その通りにすると思う。
子供も乱菊が頼んだなら、大事にすると思う。










[ 2/8 ]

[*prev] [next#]
[もどる]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -