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1、2より百年後の話。
現代。



雪の様だ、と冬獅郎は目の前の男について思う。青白い肌も、己のそれとは質の違う銀糸も。酷く冷たい様に見える。それでいて、触れれば消えて仕舞いそうな程に現実味が無い。真夏の空気の中でその男のまわりだけが異空間の様。この市丸ギンと云う男は自分の養い親だった。平安の時代の寝殿造りの様な屋形を山奥に造らせて、そこに百余の眷属と共に暮らす銀狐の化け物。しかし、百年を共に過ごしていても彼のことを自分は余り知らない。ただ己の母である乱菊と云うそれは美しい魔女の使い魔であったらしい。自身が生まれ落ちると同時に死んで終った母との約束でお前を育てているのだと、そう言われていた。

「冬獅郎、そないに雛森ちゃん探したいんやったら人里に下り」

幼なじみであり姉の様でもあった雛森が忽然と姿を消してから数週間。冬獅郎はずっと消息を追っていたが一向に見つからない。方々を探しまわり、使える術は全て使った。一寸の希望も見えず、しかし諦める訳にはいかないと焦燥していた冬獅郎を市丸は見かねたのか。

「空座町に店構えてはる浦原さんのとこに行ったらええわ。あそこには、魔王さんの妹さんもおらはるし。他にも化け物共が集いよるよって、雛森ちゃんのこと知っとるもんもおるかもしれん」

話は通したるよ、そう言って市丸が手にしていた女物の華奢な煙管をふう、と蒸した。白い煙りが辺りに散る。それが合図だったのか、間仕切りの無い部屋の奥から金色の髪をした、陰欝そうな男が姿を現した。

「イヅル、浦原さんに連絡」

イヅル、と呼ばれた青年は市丸の眷属の一人だった。一番気に入られているのだろうか、市丸は何かとイヅルと共に居り何かあれば直ぐに呼びつける。またイヅル本人もそれを嫌がってはおらず、寧ろ名誉としている様だった。他の眷属と主の関係など知らないがある意味では正しい在り方なのかも知れない。

「連絡付いたら、知らせたる」

言外にもう下がれ、と告げられた。諾、と冬獅郎は無言で頭を下げると片膝を付いて立ち上がり、朱塗りの廊下を歩いて渡った。





乱菊さんの子供を育てたギンちゃん。





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