しらないみち

そうしておいて、それが何かの役に立つのかと問われれば決してはい、とは言えなかった。ただ只管に真昼の日差しが熱い。中天まで登り詰めた太陽はその光でもってじりじりと首筋を焼き、コンクリに跳ね返っては陽炎を作り出していた。手に持ったままのアイスが溶けていく。凡そ自然界には無縁の、その毒々しいまでの青が雫となって地面に落ちた。手首を通り、肘までつう、と伝って。けれど落ちた先の地面でも円を描く水は直様消え失せたし、肌の上を滑るそれも同じだった。「うつくしくないものばかりだね」彼はその美しい唇を歪にして、そう言った。蝉の声がない。家々を守るコンクリのブロックに囲まれた道路にその言葉だけがわんわんと響いている。静寂を感じた時に耳を打つあの音にも似たその声で彼は二度言う。「うつくしくないものばかりだ」私には彼の言葉が正しいのか、そうじゃ無いのかはわからなかった。ぽたぽたと道に滴り落ちるアイスの青が果たして美しいのか醜いのか、それだけを考えている。「そう言うものかも知れないわね」知った様な声音を装った。或いは彼にはバレていたかも知れない。

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