白昼夢

夢、なのでしょう。これは。今までにこんな景色を見たことはおろか、聞いたこともない。そもそもが、現実にこんな世界が成り立つわけもない。足元に咲き誇る、甘ったるい香の花を踏み付ける。じり、と素足の裏で蹂躙された桃色の水分が冷たかった。目の前を夥しい数の極彩色の蝶が羽ばたいて、天が地と、地が天と交じり会い混じり合う。極彩色のお陰で前は殆ど見えない。ただ、ぐるりぐるり休む事なく廻り続ける視界に眩暈がした。雪崩込むような色の海に酔ってしまいそうになる。せわしなく上下する羽から零れ落ちた鱗紛が顔ににくっついた。

「気触れてしまうよ、」

不意に、極彩色の海から白い腕が出て来て私の鼻に口づけをした蝶々をぐしゃり、と握り潰した。手を広げればはらはらと重力に従って、極彩色の羽が足元を被う花に吸い込まれていった。養分としてその体を腐らせて逝くのだろうか。それとも次は綺麗な花にでも生まれ変わるのだろうか。足元で踏み躙られている花のように。

「少し、離れていてね」

彼の唇から薄い硝子を弾いた様な声が零れた。ぽう、と彼の手の平に灯った橙色の焔が蝶々の群を焼いて行く。羽と羽が触れていたのか、一瞬にして橙が蝶々をのみこんだ。追いつ追われてはらはらひらひら。それはまるで精巧なお芝居の体をしていた。


(私達は何時だって立った侭に夢を見る)



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