花を折った男の話

そう、可笑しいのね、と彼女が笑ったように見えた。その桜色の唇が開く度に甘ったるい息が零れる。かしゃかしゃと揺れる玉飾が酷く耳障りだった。白い肌に暗褐色は嫌と言う程映えていたけれど、重そうなそれに彼女の首が折れて仕舞わないかと不安になる。紅色格子の向こうから差す提灯の明かりが彼女の面に深く影を落としていた。白く細い指先が、僕の頬をなぜる。艶めかしく、手慣れた仕種に胸がちくん、とした。恋を知らぬ小僧でもあるまいに。

(でも、永遠なんて無いのよ)

不意に彼女の唇がそう動いた気がした。
真っ赤な紅が、行灯の明かりでぬらりと光った。まるで、路傍の石を見下ろす様な目で僕を見遣る。其声に、堪ら無く苛々して、つい彼女の髪を掴むと乱暴に畳へと押さえ付けた。がしゃん、と玉飾りが散らばる。綺麗に整えられていた髪は無残にも乱れざんばらに散らばっていた。息を乱して、彼女を見下ろす。肌の内側の激情に反して、何故か心は静かだった。彼女は奇しい笑顔の侭、僕に向かって何かを喚く。常なら心地良いそれが何故か姦しい。憑き物を払う様に頭を振った。僕の唇から、意味の無い言葉が湧いて溢れる。何故、だとか。嫌、だとか。煩い、とか。何かに追われて彼女の細い首に手をかけた。華奢な、他人の温度を知らない肌。片手でも簡単に被えて仕舞う。少しだけ力を込めるといとも簡単にぱきり、と折れた。冷たい水が指先を伝う。それが涙の様に畳に零れ落ちた。小さな円を描いた涙は僕のものなのか、それとも彼女のものだったのか。僕は何一つ分からない侭に折れた花を抱きしめていた。

(これが夢ならばどれほど良かったのだろうか)




[ 14/16 ]

[*prev] [next#]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -