てふ

もし、ここに、刺青を彫ったなら。男の長い指先が薄い皮膚の上を這う。脚と身体を繋いでいる証の、けれど腹とそこを明確に別つ、ごつりとでっぱった骨。触らずとも目に見えるそれを、男は態々、上から下へ、そして、また上へ、なぞってみせた。「彫ったなら、どうなるという」己の返事に驚いたか、男はぱちり、とその長い睫毛を瞬かせた。そして思案するように、指先を己の骨に引っ掛ける。かり、かり、かり、と三度。「そうだな、もし、彫るとしたら、何がいい。蝶は、どうだろう?」爪がなぞった皮の上が、どうにもむず痒い。ぴくり、と脚が動いた。どうして「蝶、」どうして、そんなに儚い生き物を選ぶ。冬の孤独に耐えられず死ぬ生き物を、己の身体に宿すのは、嫌だった。「もし、蝶々を彫ったなら、嘸かし綺麗なことだろう。お前の脚が動く度、その上で蝶々が瞬くのだから。」

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