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 霊幻の啓示


少しだけひんやりとした店内。
目に鮮やかなケースとニコニコと笑みを貼り付けてこちらを窺っている店員を前に私は携帯を耳に当てていた。
邪魔にならないようにカウンターから数歩離れて、電話に出た声に「あ、もしもし今平気?」と話し掛ければ「どうした」と心配しているような声音が耳に届く。


「今ね、ケーキ予約しにきてたんだけど」
「ケーキ?」
「うん。ほら、来月モブ君誕生日だから」
「あー…あと2週間くらいか」
「うんうん」


それでさ、と予約用のカタログを手に取って広げると数種類あるケーキたちを呼び連ねて「どれがいいと思う?」と聞いてみる。
オーソドックスなショートケーキか、万人受けするチョコレートケーキか、クリームが苦手な人も一緒に食べられるようにタルト系でいこうか散々一人で悩んだ結果、あともう一押しを新隆に決めてもらおうという魂胆だ。

去年は確かケーキの詰め合わせでカットされたものだった。
その方が各自好きな物を選び取りやすいが、少し前にモブにケーキの話題を出してそれとなく聴き込もうとした所「ワンホールってやっぱりワクワクします」と顔を綻ばせたのを見て"今年はホールケーキでお祝いしてあげよう!"と思ったのだ。

肝心のケーキの好みを聞き損ねてたのには我ながら抜けてるなと呆れ物だが、モブ君と付き合いの長い新隆の意見なら参考になるだろう。

そう、思ったのに。


「…何でもよくね?」
「よくないよ。よく考えてよ」


無情にも電話先の相手はろくに時間も置かずにそう言ってのけた。


「だって多分どれでも喜ぶぞ。予約ってことはあれだろ?"お誕生日おめでとう"のプレート付けて貰えるんだろ?チョコのやつ。んでロウソクも」
「うん」
「それがついてりゃイナゴの佃煮ケーキでもなきゃどれだってアイツは嬉しいよ」
「んなケーキある訳ないじゃん!私は散々悩んだんだけどあともう一押しあればどれにしようか決められそうなんだよ…」


私がそう言うと「んー。ちょっと待ってろ」と新隆はゴソゴソと物音を立てて何かをしているみたいだ。
言われた通りそのまま待っていると「啓示が出たぞ」と声が戻ってくる。


「なになに?」
「ショートケーキにしなさい。定番てのが一番喜ばれるんだぞ」
「ショートケーキね。苺のと、季節のフルーツのとがあるんだけどどっち?」
「何。もうちょっと待て…………苺だな。ド定番だ」
「わかった!ありがとう新隆!」


ようやく買うものが決まって早速私は待ちぼうけだった店員さんに「コレでお願いします」とカタログを差し出した。


---


もうこれで心残りはないぞ!と霊とか相談所に戻ると、珍しくお客さんが来ていて新隆は施術室にいるみたいだった。
冷めかけている机の上のお茶を下げると、1本の鉛筆が転がっているのに気がつく。
芯が削られていないそれを不思議に思って手に取れば、背端が面に沿って削られている。
その木面にペンでショート、チョコ、タルトと文字が刻まれていて、啓示の正体に私は一人ほくそ笑んだ。






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