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 峯岸とシンデレラ




"折角のいい天気なんだから、光合成しよう"と半ば無理矢理連れられた自然公園。
初夏の陽射しは次第に夏日のような熱気をもたらして、少しでも涼しい場所を求めた2人は湖に面した桟橋に並んで腰掛けていた。


「峯岸って眉毛剃ってんの?」


穏やかな風が水面を掬う涼しさの中文庫本を読んでいた峯岸に、唐突に質問が投げかけられる。
しかし彼女が突拍子もない言動をするのはいつものことで、顔は本に向けたまま一瞥して答える。


「…元々だよ」
「へえ」
「……」


自分から聞いておいてその返事はなんなんだと峯岸は僅かに口角を下げた。
聞いてきた張本人はもう興味をなくしたようにプラプラと足の先に引っ掛かったサンダルを揺らしている。
足の親指と人差し指だけが保っているその均衡をちらりと見て、峯岸は「落とさないでよ」と声を掛けた。


「平気平気。……あ」


言った傍からするりと指の股から抜けたサンダルがとぷんと音を立てて湖に落ちていく。
重みを失ったエメラルドグリーンの爪先が虚しくその飛沫を受けて、広がる波紋が白いふくらはぎに揺らめく光を反射した。


「どこが平気なの」
「言われるまで平気だったもん」
「僕のせいだって?」
「アレだよ。ママが"転ばないでね"って言った瞬間子供が転んじゃう現象あるでしょ。それそれ」
「…………」

--それで言うなら僕はママなのか……


不服そうに峯岸が見つめる視線に気づいているのかいないのか、素足になってしまった片足を所在なさげにしている彼女はキラキラと輝く湖面を見下ろす。


「どうしよう。深いかなぁ?念動力届くかな」
「そんなに深くなさそうだよ」
「峯岸たちの感覚はアテにならないから」
「…どうして?」
「君ら5超は私みたいなぺーぺーエスパーと次元が違うんです〜」


そう言うと目を強く瞑り、彼女の体が薄紫に輝く。
超能力で落としたサンダルを手繰り寄せようとしたのだろうが、僅か数秒で「……ハァー!保たない!持てない!」と根を上げた。
深く息を吐き出して腰掛けていた桟橋にごろりと背を預け仰向けになる。


「ちょっと休ー憩ーぃ!」
「休んだ後どうするの」
「んー……湖にダイブ?」
「流石に水浴びするにはまだ早いよ」


パタンと峯岸が本を閉じた。
それを横目に「峯岸がダイブしてくれるの?」と倒れたまま尋ねる。


「そんな訳ないでしょ」
「漢気見せろぉー」
「何それ…」


呆れたように峯岸に見下されて、彼女はヘラヘラと笑った。
自分はもうすっかり見慣れてしまったが、三白眼の彼が顔を顰めたり窘めるように視線で訴えてくるとまるで睨まれているようで。
しかし本人の本意はそうでないと知っているとその目つきの悪さも可愛く思えてくるのだから不思議だな、とつい笑みを浮かべてしまった。


「足伸ばして」
「ん?」
「足、出して」


言われるがまま素足の方の足をぴんと伸ばす。
すると湖面からシュルシュルと伸びた水草がサンダルの片割れをその足にしっかりと履かせた。


「わぁ!私の靴!」
「濡れて気持ち悪いだろうけど、それは自分でどうにかして」
「流石です峯岸様!」


今度は落とすまいとしっかり桟橋の上に足を下ろす。
片足だけびちゃ、と水を滴らせた足の跡が橋の木目にアクセントを作った。


「見つけてくれてありがとう」


改めてお礼を口にすると、峯岸は膝をついてその濡れた足をハンカチで拭う。
先程自分でどうにかするように言っていたはずなのにと苦笑すると、峯岸は無い眉を上げるような素振りをして「どういたしまして」とぶっきらぼうに返した。




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