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 霊幻とデートの待ち合わせ





「お前……ここまで何で来た?」
「え?普通に…電車できたけど?」


久しぶりに休みが合って待ち合わせたというのに、出会い頭に私を見て新隆の顔が曇った。
電車、と聞いてその眉間に皺が寄って思わず自分の姿を見下ろしてみる。

しかし目に入るのは数週間ぶりに会えるのが楽しみで買ったばかりの真新しいスカンツとニット。
ブーティにも汚れは無いし、ジャケットかな?と思って腕を上げてみたり肩を払ってみるけれど汚れや落ち葉の類で新隆がこんなに顔を曇らせる訳ない。


「えっと…何か変、だった??」
「…いや、変じゃない。とりあえず、前閉めるな」
「う、うん」


ファスナーに手が伸ばされてジャッ、と引き上げられる。
オーバーサイズが流行っていると聞いて合わせたジャケットは前を閉めると服に着せられている感が出てバランスが悪いんじゃあ、と思ったけれど新隆はオシャレだし、きっと閉めてる方がいい具合だったのかもしれない。


「……なんでまだ変な顔してるの?」
「…んん…」


しかしファスナーを上げても新隆は顔を顰めたままだ。
それどころか「いや、ダメだ」と言って上げたファスナーを結局下げている。

訳が分からない。
結構気合いを入れてきたのに。
会ったら開口一番「可愛い」とか、もしかしたら言ってくれるかもって期待してたのに。
期待は私が勝手にしてたんだけど。

なんとなく風船から空気が抜けるように段々と気持ちが萎んできて、足元に視線を落とす。


「……可愛くなかった…?」
「可愛い」
「…………うん??」


いじけてるのを表に出すようで言いたくなかったけれど、そうしないとツキンと痛んだ胸を誤魔化せなくて、外で大人気なく泣くくらいなら不機嫌アピールをしてやろうと思った。
なのに新隆は間髪入れずに可愛いと即答してきて、思っていた反応と言葉がイコールにならなくて思わず顔を上げる。


「なんで出掛けんのにそんな格好してくんだよ。家来る時にして欲しいわ」
「???」
「何変な顔してんだ」


出掛けんのにそんな格好…?
出掛けるからオシャレしてきたんだけども…?

新隆の言葉の意味がわからなくて今度は私が眉を寄せる。


「久し振りに新隆とお出掛けだから、こんな格好して来たんだけど…え?どういう意味??」
「どういうって……」


チラ、と新隆が私の顔から視線を少し下に移して口篭った。
何をそんなに見てるんだろうと再び私も自分の姿を見下ろす。

ニットのデザインから見えている胸元にはキラリとお気に入りのネックレスが覗けていて、いいバランスだと私は思うけどな。


「…もしかして、胸元開いてるのがダメなの?」
「ダメとは言わないが…タートルネックなのにそこ開いてたら寒ぃだろ。家着にしなさい」
「えー!寒くないよ別に」
「スカートだって短いし。上着閉めたら下履いてないみたいだったし」
「これ中ズボンだよ。上着も大きめを羽織って中はピッタリってのが今風ですよって店員さんが言ってたもん」


流石にスカート部分を捲りはしないが、くるりとその場で回って下着見えを気にする必要がないことを示してみる。
「肩を外して着流してる風にしてもいいんだって」とジャケットを少しズラすとニットの切れ目から露出している肩が外気に触れて少しだけヒヤリとした。
途端に新隆は目を見開いて私のジャケットを元通りにしっかり着させてくる。


「は!?肩まで出てんのかよソレ、しまえ!」
「オシャレだってば」
「とりあえず今日は予定変更な」
「なんでー!?」


出掛けたかったのにと抗議するも、新隆は私の手を引いて繁華街とは別方向に歩き出してしまう。


「今日楽しみにしてたんだよ?お出掛けしようよー!」
「ふざけんな。悪い虫が寄るだろ。見られるのも嫌だわ」
「えっ…」


本当に他の人の目になるべく晒したくないのか、新隆はタクシーを拾っている。
あんなに普段ケチなのに。
タクシーに押し込まれて私の隣に新隆が座り込むと、タクシーの運転手に住所を告げてる。


「新隆の家まで行くの?最寄り駅で良くない?」
「馬鹿。駅からだって人通りがあるだろ」
「そんなに気にする?」
「するわ!」


そう言うと自分の上着を私の膝に掛けて、また私のジャケットのファスナーを閉めてくる。
タクシーの運転手さんにまで見せたくないんだろうか。
空調の効いているタクシーの中でこの姿は汗ばみそう。


「これじゃ暑いよ」
「オシャレは我慢だぞ」


そう言う意味で使う言葉だったかなと思ったけど、必死な新隆が何だか面白くてつい苦笑してしまった。


「髪だって頑張ったのにな」


お出掛けの為だったのに、と目だけは恨めしげにして見てやる。
すると「俺の為にありがとうなー」と棒読みで新隆は宥めてきた。


「後でたくさん褒めるからとりあえずそれで外出はするな」
「……ソクバッキー…」
「うるせ」


急に子供みたいに言い返された。
2人していじけあってる姿がなんだか不思議で面白いし、もう、お家デートでもいいかな。






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