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 マイナスと同じだけプラスを求めるテル




「テルなんて大っ嫌い」
「……うん?」


もうすぐ正午になろうという頃。
昼食の用意を一緒にしながら不意に投げられた私からの衝撃的発言を、テルは聞き逃したのか首を傾げている。
それなら追撃だとばかりに「別れるから」と今度こそテルにわかるように声を張った。


「わかれる……?」
「うん」
「今?」


"一緒に食事の準備をしているこの状況で?"と言い出しそうな様子で、テルは一度止めてしまった手をフライパンの中身が焦げないように再び振り始める。


「今じゃなきゃダメなの」
「ん?…………そうか…」


--え……、い、いいの?


調理中に出た洗い物をテルの隣で洗いながら、言い出しておいて何だけれど私は緊張で心臓が口から出そうだった。

驚かれるだろうとは思っていた。
なんで?と理由を問い詰められるかもとも思っていた。
だから午前中ギリギリの今を狙って言ったのに、それでもやはり自分の口から出た言葉の攻撃力たるや凄まじいもので。

しかもそれを聞いたテルは「そうか」と私の意見を聞き入れてしまった。
あんまりにもあっさり。
今度は私の方が動揺する番だった。


「な、何か言うこと、無いの?」
「うん。嫌いだから別れたいんだろう?」
「何処が、とかさ……急に何で?とかさ」
「うん。わかってるからね」
「え?」


理解ある男だから、という意味だろうか。
それとも私の本心を見越しての「わかってる」なんだろうか。

ドキリとしてテルを見ると、目が合ってニヤリと笑われた。


「今日、エイプリルフールだもんね」
「何だぁー、気付いてたの……」


驚かせたかったのに。
そう言ってラックにまな板を立て掛けると、テルは出来上がったピラフをお皿によそう。
時計を見ればちょうどお昼の12時を指して、ネタばらしまで速やかな10分間だったな、と肩を落とす。


「最初は驚いたよ?耳を疑ったね」


テルはそう朗らかに笑ってエプロンを外すと、「でも」と一拍置いてから続けた。


「別れてもまたすぐ好きにさせる自信があるし」
「ポジティブすぎる」
「アハハ!だって好みは把握してるし……」


2人分のスプーンと温めていたスープを持って行くと、「ありがとう」とテルがニコニコ笑みを浮かべている。
全く崩れる素振りのないその笑顔にほんの僅かに嫌な予感を覚えながら、テルの向いに座ろうとした。


「そもそも離すつもりもないからね」


明るい口調なのにやけに圧を感じる言い方に、浮いたままの腰を降ろせず固まる。

ああ、これは……怒っている。
「例え嘘でも言うんじゃないぞ」と、今私は叱られているんだとようやく察した。


「でも良かった、もし本気だったらご飯冷めちゃう所だった」
「ご、ごめんなさ……」
「どうして謝るんだい?いいんだよ、だってエイプリルフールだもんね?」


出来たてのピラフに視線を落とす。
1歩間違えば、火から降ろされたばかりで熱々の湯気が立つコレが冷めてしまうくらい長い時間、文字通りわからせられる未来があったかもしれない。


「大嫌いっていうのも嘘だよね?」
「あ、当たり前だよ!」
「良かった。じゃあ、本当は?」
「……本当は……?」
「うん」


未だ笑顔を絶やさないテルの顔色を窺っても、「本当は?」と促されるばかりだ。
謝って欲しい訳ではなさそうだし、と考えを巡らせてはた、とテルが求めている言葉に気が付いた。

まさか。
これで私の言った言葉を帳消しにする算段なんじゃ。

気付いたと同時に体温が上がっていく。
汗ばむ掌に強くスプーンを握り締めると、私の様子の変化にテルは目を細めた。


「本当は?」
「う……」


急かす様に、導く様に、テルの口から再び同じ単語が放たれた。
まるで「言えるよね?」と言っているみたいなその声音に促されて、私は口を開く。


「ほ、ホントは……だっ、大好き、です」


上擦る声が恥ずかしい。
しかしテルの要求に応えなければと振り絞って言えば、満足気にテルが頷いた。


「ありがとう、僕も大好きだよ」


さらりと言えてしまうのがテルの凄い所で。
思わぬカウンターに「ひゃい」と返事のなり損ないみたいな声を上げるとフフ、と笑われる。
ようやく「食べようか」とお許しが出て2人で手を合わせて仲良くいただきますをした。

神様テル様お昼ご飯をありがとうございます、という気持ちと一緒に、もう二度とこんな嘘はつきません、と固く誓いを込めて口に運んだピラフはそれはもう美味しかった。






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