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 魔津尾とバレンタイン




「魔津尾さんて、バレンタインは上げる方ですか?貰う方ですか?」


バレンタイン、と聞いて魔津尾はファッション雑誌に落としていた視線を上げた。
ちょうど見ていた雑誌にも”バレンタインのデートコーデ”特集があって、「そういえば今日だったわね」と魔津尾は壁掛けのカレンダーに顔を向ける。


「上げたこともあるし、貰ったこともあるけど」
「そう、ですよね」
「何?私にくれるの?」
「えっと…」


突然どうしたんだろうかと首を傾げれば、聞いてきた本人は言葉を探しているように目線を右往左往させた。
少しの間彼女の言葉を待っていた魔津尾だが、「んー」と片頬に手を宛てると口を開く。


「それとも私が、オンナとして上げたいと思うのかオトコとして貰いたいと思うのかって話?」
「う、あ。ご、めんなさい失礼な事聞いて」


改めて言葉にしてみると人によっては確かに気を悪くするかもしれないだろうが、魔津尾は「気にしないで頂戴」と叱られた子犬のように小さくなる相棒に微笑みかける。
その頭を撫でて宥めてやりたいと思うが、今度は此方が礼を失してしまうと雑誌を閉じてやり過ごした。


「甘い物、大好きだから貰いたいわね」


「知ってるかもしれないけど」と肩に止まっているガムちゃんの顎を擽ってやるとギャルルと愛霊は喉を鳴らす。
魔津尾の答えを聞くと、使役している悪霊たちがお菓子の名前であることを今まで忘れていたように彼女は目を見開いた。
ホッとしたように相棒は「じゃあ」と言っておずおずと赤いリボンが結ばれたピンクの箱を差し出す。


「良かったら、どうぞ。お口に合うかわからないんですけど…」
「アラ!貰っていいの?」
「はい!」
「ありがとう。大事に食べるわね」


そう言うと魔津尾の言葉に彼女は嬉しそうに頬を染めて頷いた。
しかしそのすぐ後に「まずかったらごめんなさい」と眉を下げている。


--喜んだり不安がったり忙しい子ね、まったく。


魔津尾は「アンタは心配性ねぇ」と笑った。
もう今日は事務所を閉めようと帰り支度をさせて、あとは部屋を出るだけという所で出入口に立った魔津尾は相棒を手招く。


「ちょっと。早くこっち来なさい」
「今行きます!」


パタパタと小走りで駆け寄ってくる姿はやっぱり子犬だな、と魔津尾はクスリと笑い、「ハイ、口開けて」と語りかけた。


「口?ですか?」
「そう。あーんよ、ホラ」
「あー…?」


素直に言われるがまま開かれた口に、魔津尾は一粒チョコをいれてやる。
急に舌の上にやって来た甘さに驚く彼女は「はふふぉはん、」と口を開けたまま抗議しようとしてきて、魔津尾は持っている間に少しだけ溶けて指についた分のチョコを舐め取りながら「行儀が悪いわよ」と相棒の顎を掴んで閉めさせた。
むぐ、と閉ざされた口のまま、相棒の視線が魔津尾の舌に釘付けになる。
魔津尾さんこそ、行儀が悪いですと言ってやりたいがチョコを含んだ口を開けることもできない。
いつも何かと世話を焼いて自分を叱ったり甘やかしてくれる口が、急に纏った色香に目をそらす事が出来ずにいた。


「美味しいじゃない、ちゃんと。コレ手作りでしょ?」
「! ふぁい…」
「ヤダまだそのままにしてるの?」


じわじわと相棒の頬が赤く染まっていく。
放り入れられたチョコを噛みもせずに舌に乗せたままらしい彼女の声に笑うと、スッとその瞳が細められた。


「食べないならソレ、貰っちゃうわよ?」


顎を掴んだままの相棒に顔を寄せて、至近距離でそう囁く。
唇が今にも触れてしまいそうで、ふわりと甘い香りが漂った。






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