「もうショー自体は終わってるけど、まだ未編集の撮りたてほやほやだよー」
なんて隣で説明してくれる司さんの声を呆然と聞きながら、俺はまさに舞台を歩く玲央の姿に釘付けになっていた。
玲央の前まで歩いていたモデルとは違い、これっぽっちも愛想を振り撒かない態度は横暴だけど、舞台近くの女性はみな顔を真っ赤に染めて玲央を見上げている。
金の髪から覗く真っ直ぐな瞳、音楽に合わせたウォーキング、しなやかに流れる手先の動き、少しも媚びらないポージング。けれどターンして戻っていく玲央に会場中の視線が集まっていた。たった一瞬のその時間で、朝日向玲央という存在を色濃く残していった舞台はもう、彼のもの。
「……かっこいい」
「惚れ直しちゃった?」
「……はい、」
なんて呆然としたまま答えた俺の頭をぐしゃりと、誰かが乱した。
「そういうのは直接言え、馬鹿トラ」
「……え!?」
ぐるん。横を向いた俺の隣に立っていたのは、俺とは色違いのマフラーを首に巻いてレザーコートを着た玲央だった。
姿を認めた瞬間、タコのように真っ赤に茹る俺に息をついた玲央は、ゆるりとマフラーを解く。
「腹減った、お粥でいいから作れ」
「え? ほとんど仁さんの手作りだから大丈夫だよ?」
「はぁ? 言わせる気か?」
なにを? と固まる俺の逆隣りで、こっそりと近づいた司さんが「お前の手料理が良い、なんて言わせたいのかなぁ? 小虎くん」なんて囁くものだから、俺は固まったままさらに茹って赤くなる。そんな司さんにアイアンクローをしかける玲央に、今アイアンクローが流行っているのか? といくぶん冷静になった俺は立ち上がり、玲央が脱ぎ掛けていたレザーコートを受け取った。
「なにその夫婦みたいな流れ。ねぇ、砂吐いていい?」
そんな俺たちのやり取りを見ていた司さんがげんなりしたままそう言うので、収まったはずの羞恥心がまた戻ってくるのであった。
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