ゆったりとした歩調でこちらへ歩み寄るノエルさんに、あんぐりと開いていた口を慌てて閉じた。ついに目の前までやってきた彼は、変わらず綺麗な金髪を輝かせ、青い瞳を柔らかく細める。
「久しぶりだね、少し色気が出てる。恋でもしてるの?」
「へ!? や、え、ひ、久しぶりです!」
久しぶりの再会でいきなり突飛なことを突かれて狼狽する俺に、しかしノエルさんは優しく微笑んだ。
「ごめんごめん、会えて嬉しかったからイジワルしちゃった」
許して。とウィンクをされて軽く息をつく。
「仕方ないので許してあげます。でもノエルさん、どうしてここに?」
「ほら、つい最近までこっちにいたでしょう? そんなにこっちが好きならこっちにいろって、務めている会社で日本支社に配属されたんだ。冬に異動なんて散々だと思わない? でもあっちと気候が似てて良かったよ。むしろこっちのほうがちょっと温かいかな」
「そうなんですか? 海外なんて遠いからよく分かんないけど……でも、会えて嬉しいです」
「うん、僕も。コトラにはまた会いたいって思ってたから、あと、コトラのお粥のファンになったから。死ぬまでにはもう一度食べなきゃって意気込んでたくらいだよ」
「あはは。ありがとうございます」
以前とは違う、恐らく素であろうノエルさんの言葉に素直にお礼を言うと、それだけでノエルさんは天使のような笑みを見せる。眩しい笑顔だなぁと思いながら、先ほど仙堂さんが教えてくれたパネットーネはノエルさんの母国のお菓子なんだろうと合点がいった。
「イタリアの生まれなんですね。金髪なので勝手に北欧系かなって思ってました」
「あはは、イタリアって言ってもミラノだからね、北部は僕みたいな金髪は多いよ」
「へぇ、俺、今ちょっとだけ賢くなりましたよ」
「おめでとう。これでテストで良い点とれるね?」
「うーん、どうでしょう」
あはは。目を合わせて笑い合う俺とノエルさんを見ながら、すでにチキンに手を伸ばしていた司さんが「平和だねぇ」と呟いた。
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