「あー、いてて。メリークリスマス、小虎くーん」
司さんと同じように小さなサンタ帽をかぶっていた新山さんは赤くなった顔をさすりながらもう一度、改まって俺に挨拶をしてくる。それに苦い顔で応えると、冬の外気とは違って爽やかな笑みを浮かべる隙のない仙堂さんが手に持っていた紙袋をカウンターに置いた。
「ケーキは作って頂けるとのことでしたので、パネットーネを持ってきました。お皿を貸して頂けますか?」
「ぱねっとーね?」
「はい、イタリアの伝統的なクリスマスデザートですよ」
デザート、というので少し大きなめな長皿を渡すと、コートを脱いで袖をたくしあげる仙堂さんは箱に入っていたパネットーネを綺麗に盛り付けはじめた。
「マフィンみたいですね」
「そうですね。これはオレンジピールが使われているので、よりフルーツの甘みが増してとても美味しいですよ」
「へぇ、食べるの楽しみです」
「それは良かった」
にこり。微笑む仙堂さんと柔らかな空気に俺も自然と笑顔になる。食べたことのないデザートへの期待もあるが、たまに店を訪れるようになった仙堂さんは当初よりも随分優しくなったと思う。
「やー信じられないよねー、こいつこんな涼しい顔して甘党なんだよ小虎ぐほっ!?」
「あれ? そこにいたんですか仙堂さん」
今度は見事な裏拳を披露した仙堂さんに、ついに志狼まで雄樹と一緒に拍手をし始めた。やめなさい、変なものを覚えちゃいけません。
「でもなんでイタリアのクリスマスデザートなんですか?」
そんな漫才にいちいち突っ込むのもあれなので、苦笑を浮かべながら質問するとそれまで息の合わなかった二人が同時に意味ありげな笑みを浮かべる。え、なに。と、構える俺をよそに、店の出入口であるエレベーターから降りてきたのは、
「メリークリスマス、コトラ」
「……ノエル、さん?」
あの日、帰国したノエルさんだった。
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