「しかしクリスマスなぁ、ケーキでも焼くか?」
「仁さんケーキも作れるんですか?」
「まぁな。ちなみにあいつは俺が作ったアップルパイに目がねぇ」
「え、そんな美味しい情報、俺に聞かせていいんですか?」
そのネタで雄樹をからかいます。と宣言しているような質問に仁さんがカラカラと笑う。俺も同じように微笑みながら、店内のあちらこちらで聞こえるクリスマスの計画にぼんやりと耽った。
「ケーキ、かぁ。作ったことないです。でもやっぱりそういうイベントに乗っかったほうがいいんですかね」
「クリスマスくらいメジャーなイベントなら乗っかってもいいんじゃねぇか? なんならバレンタインはチョコレート粥出してもいいぞ?」
「えぇ!? それ多分雄樹が一番張り切りますよ!?」
制作者側に回ってとんでもないキチガイ料理を編み出すに決まっている。本気で驚く俺にやはりカラカラ笑う仁さんは、もしかしたらいつもよりテンションが高いのかもしれない。
「楽しそうだなぁ、おい。俺も混ぜてくれや」
と、そんな俺たちの前に現れたのは、あの日から姿を見せることがなかった巴さんだった。と、いうか。
「巴さん、髪切ったんですね」
「ん? おー、似合うか?」
「はい、前よりちょっと幼くて、可愛いです」
「ははは、俺に可愛いなんて言うのはお前くらいだよなー」
以前までオールバックだった黒髪はほどよく切り揃えられ、前髪が生まれたことで年相応な雰囲気を持った巴さんが俺の前に座る。
すぐに温めておいたお手拭を差し出すと、受け取った巴さんは手を拭きながらビールを頼む。
「最近見ねぇからどっかで野垂れ死んじまったかと思ってたよ」
「ひでー、仁はもう少し小虎を見習った方がいいぜ」
「はっ、余計なお世話だ」
と、互いに口は悪いが流れる空気は穏やかだ。俺はニコニコと微笑みながらそんな二人を眺めていた。
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