「トラちゃん卵三つお願いしま〜す」
「こっちは梅と卵二つずつくださーい」
「あ、トラちゃん俺中華粥ね」
あれから相も変わらず俺はカシストでお粥を作っている。
デスリカからハシゴしてくる酔っ払いも、最初からお粥と仁さんのカクテル目当てにくる客も、最早見慣れた顔ぶりが並ぶ店内はシックなバーというよりも、どちらかと言えば居酒屋に近い。
けれどそんなカシストにも噂を聞いた女性や男性も多く訪れるようになった。居酒屋ほどうるさくなく、バーよりも静かではないこの空気に好き嫌いは別れるが、多くは笑顔を浮かべているのでこちらとしても安心だ。
「仁さん、クリスマスっつーか二十五日って貸切できますか? 身内でクリスマスパーティーやりたいんですけど」
「はぁ? 貸切ぃ?」
大学生であろう常連の一人が仁さんに声をかける。その内容に仁さんは顔をしかめて「貸切なんてしねーよ。来たきゃ勝手に来い」とつれない返事だ。
けれど不特定多数の客を迎え入れたいのだろうなぁと思い、俺は下手に口出さずにいたが、常連である彼は口を尖らせ「じゃあ席の予約くらいさせてくださいよー」と諦めきれないようだ。
「貸切なんてはじめて頼まれたぞ」
「え? そうなんですか?」
「おー、だからちょっとビビった」
「えぇ!?」
結局は長テーブルの席を四席ほど予約する、という形で決着をつけたあと、仁さんの言葉に俺が驚く。あの仁さんがビビるとか、むしろそっちに俺がビビる。
「なんだよトラ、俺がビビっちゃ可笑しいか?」
「え!? や、ははは、あはははは」
「てめー顔に書いてんだよ」
「あいてっ」
俺がカシストで働きつづけたいと願ってから、仁さんは以前よりも砕けた態度で接してくれるようになった。帰りには会計処理の手伝いもお願いされて、たまに学校帰りには買い出しもさせてもらえる。
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