旅行から帰ってからも、玲央は俺に悪戯こそすれどその先はしなかった。当たり前のようにキスはして、服の中へ手を滑り込ませるくせに、背中をなぞるくせに、その先はしない。
まるでお預けを食らった犬のようで、悔しい俺の気持ちを分かり切っているだろう玲央が、それでも熱っぽい視線を向けるから期待してしまうわけで。
好きだ。と告白して玲央からもそれ以上の返事をもらったけれど、俺たちのなにが変わったかと問われればスキンシップがより過剰になった。それだけである。
世間一般の告白したら恋人、なんて甘い響きなどありはしない。じゃあこれは、一体なんなのか。
「ちゃんと乾かせ」
「ん、自分でやるよ。大丈夫」
「いいから黙ってろ」
相変わらずしょっぱい玲央の手料理で腹を満たし、シャワーを浴び終えた俺の頭にゴシゴシとタオルを押しつける玲央の手に大人しく従う。
ソファーに座る玲央の足の間に収まるこの図はもう、当たり前になってしまった。
なんだかどんどん乙女チックな思考に陥る自分がちょっとなぁ。なんて思うが不思議と不安はなかった。それは多分、こうして玲央が俺に触れて、大事に扱ってくれるのが分かるからだ。
じゃあなにか? 俺はエロいことがしたくてムラムラしてんのか? ――だとしたらもういっそ、穴に埋まるどころか埋めて欲しい、この身ごと。
「あのさぁ、玲央」
「あ?」
そんな危うい思考を取り払い、玲央のほうへ振り向いた。ぱさりと肩に落ちたタオルを握りしめ、玲央の足の間から降りて、床に正座する。
「報告があります」
「……」
改まった俺の態度に玲央は口を閉ざし、目でつづきを促す。
「高校卒業後も、俺はカシストで働きたいと仁さんにお願いしてきました。仁さんは俺を受け入れてくれて、だから俺、進学はしません。カシストで働きながら、これからもっと色んなことを学んでいきたいです」
「……」
はっきりと、玲央を見上げながらあの日約束した報告を果たすと、玲央の目はすっと細まる。
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